本研究では、ダウン症候群に発症する合併症が、21番染色体上のどの遺伝子発現量の増加によって引き起こされるのか、その責任遺伝子を同定することのできる疾患モデル系の樹立を目指す。 昨年度、クローニングしてあったヒトXIST cDNAのフラグメントをつなぎ合わせ、その塩基配列を確認することで、正しくXISTカセットを得ることができた。この配列をテトラサイクリン誘導システムのTet応答配列とつなげ、CRISPR/Cas9をもちいて21トリソミーiPS細胞の21番染色体の1本に挿入した。さらにZinc Finger Nucleaseをもちいて、19番染色体のAASV1領域にrtTA配列の挿入を行った。 今年度は、このXIST-trisomy 21-iPS細胞にDoxycycline(Dox)を投与して約2週間後(Dox+)、さらにDoxを除去して2週間後(Doxremov)のふたつの状態を作り、これらのiPS細胞における21番染色体上の遺伝子発現をRNA-seqによって確認を行った。21番染色体上の遺伝子発現は、Dox+では期待通りほぼダイソミーと同じ発現量に不活化され、かつDoxremovではこの不活化状態が維持されることが分った。このことは21番染色体がXISTによって不可逆的に不活化されることを示す。 次にこのiPS細胞をアストロサイトへと分化誘導を行ったうえで、Dox+、Doxremovでの細胞増殖を観察した。私たちの研究室では、ダウン症アストロサイトでは健常児に比較して明らかに細胞増殖が更新していることを見出している。Doxを投与することでこの細胞増殖が抑制されほぼ健常児レベルまで下がること、Doxremovにおいてはこの抑制が消失することが分った。この遺伝子発現型・表現型のあいだにある矛盾が、アストロサイト異常増殖の原因遺伝子同定につながると思われた。
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