低フォスファターゼ症(HPP)は、組織非特異的アルカリフォスファターゼ(TNALP)としても知られているALPL遺伝子の異常による先天性骨形成不全症である。これに対し、現在では人工的に合成されたアルカリフォスファターゼ(薬品名 ストレンジック)を投与する酵素補充療法が行われているが、長期的な投与 により中和抗体が産生されてしまうことが報告されている。このことから、HPP患者のQOL向上を図るより効果的な治療法の開発が望まれる。そのためには、未だ理解が不十分なTNALPの生物学的役割を明らかにする必要がある。 本年度は、前年度に樹立したALPLをノックアウトしたヒト骨肉腫由来の細胞株である、HOS細胞を用いて、ミトコンドリアに局在するTNALPが与えるミトコンドリア機能への影響を解析した。しかし、細胞内ミトコンドリアのコピー数や呼吸機能に影響は認められなかった。 本研究課題では、HPPの病態理解を深め、従来の酵素補充療法との併用、あるいはそれに変わる新規治療法の基盤を築くため、TNALPの生物学的解析を行ってきた。その結果、TNALPには現在までにもよく知られている細胞膜に局在するアイソフォームの他、ミトコンドリアに局在するアイソフォームが存在することを明らかにした。このことから、HPP患者の細胞ではミトコンドリアの機能にも影響が及ぼされていると予想されたが、ミトコンドリアの呼吸機能に明らかな変化は認められなかった。したがって、今後の研究方針としてミトコンドリア機能以外の観点からミトコンドリア局在TNALPの機能を調べる必要がある。
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