研究課題/領域番号 |
20K16897
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
加藤 耕治 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (40844056)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レトリーバー複合体 / VPS35L / エンドソーム / 脂質異常症 / 骨形成異常 / 3C症候群 |
研究実績の概要 |
我々はVPS35Lの両アレルにおける機能不全が、3C-like 症候群の新規の原因であることを報告した。この症候群の名前である3Cとは3つの臨床的な特徴の頭文字:Cranio-Cerebello-Cardiac dysplasia(頭蓋顔面-小脳-心臓の形成異常)を表すが、患者さんではそれ以外にも低身長・末節骨低形成などの骨形成異常、蛋白尿など、多彩な表現型が見られることも併せて報告している。 本研究の開始後、類似の表現型を呈した患者さんのゲノム解析を行い、現時点で4家系5症例の臨床情報を蓄積し、脂質異常症、免疫系異常、消化管の機能不全を新規の表現型として確認した。これら臨床情報の蓄積により、臨床像の全貌が徐々に明らかになってきており、今後の臨床管理に活用することが出来ると考えている。 細胞機能に関しては、VPS35Lはレトリーバー複合体のコアタンパクであり、エンドソームにおいてエンドサイトーシスにより取り込んだ細胞膜蛋白質を細胞膜にリサイクルする働きをしている。従って、VPS35Lが欠損すると多数の膜蛋白質の発現量が低下する。 患者さん由来の血球を3症例に関して解析したところ、いずれもVPS35Lのタンパク発現量が明確に低下していることを確認した。続いて患者さんで見られた脂質異常症のメカニズムを解析するため、NIH-3T3細胞においてVPS35Lの発現を抑制した細胞を作成し、脂質の取込みに重要なLRP1、LDLRの細胞膜における発現量を確認したところ、コントロールの細胞に比較して明確に細胞膜での発現が低下していることが分かった。また、蛍光ラベルしたLDLの細胞内への取込み能力を測定した結果、VPS35Lの欠損細胞で有意に低下していた。従って、脂質受容体の発現量低下により血清から肝細胞へ脂質の取込みが十分にできないことが患者さんにおける脂質異常症の分子病態であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究助成の開始前には1家系2症例のみであったが、3家系3症例の追加をすることができており、当初の目標通り、徐々に臨床的な全体像を明らかに出来ていると考えている。その過程で表現型の新たな合併症も分かり、特に脂質異常症に関しては病態解析において重要な情報を得ることが出来た。加えて、追加で蓄積した患者さんの臨床情報は従来診断されていた患者さんにも役立っており、脂質や免疫系の採血データを確認したところ、正常範囲からの逸脱が発見され、フォローアップを行っている。 患者さんの表現型が多彩であり、蓄積された症例数も増えつつあるとはいえまだまだ少ないので、病態解析を更に進めるためにモデルマウスの作成を行っている。ノックアウトマウスが胎生致死であることから、患者さんで同定され、機能解析にて機能低下型変異であることを確認したミスセンス変異をノックインマウスしたマウスの作成に成功し、脂質異常症や成長障害など患者さんで見られた表現型をノックインマウスも呈していることを確認した。 以上の通り、患者さんの蓄積による患者さん表現型の全体像の理解、合併症の分子病態の理解、そしてマウスモデルの樹立を行うことが出来ており、概ね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.現時点で4家系5症例を集積しているが、類似の表現型を有する症例のゲノム解析を積極的に行い、更なる患者集積と臨床像の理解を行う。加えて、VPS35Lのみではなく、エンドソームのリサイクル機能に着目してpathwayとしての症候群の理解を目指していきたいと考えている。 2.脂質異常症に着目した機能解析を行ったが、患者さんでは多様な表現型が見られているので、それら表現型に着目して病態と分子メカニズムを細胞レベルで解明していく。具体的には、表現型のある組織由来の細胞株、もしくはマウスモデル由来の初代培養細胞を用いて、VPS35Lの欠損によりどの様な細胞膜の変化が起こるのかを観察し、それを踏まえて病態への関与を検討する。 3.ノックインマウスを樹立し、患者さんの表現型を模倣していることを確認できたので、組織学的な解析、行動解析などにより、疾患の病態理解を目指し、治療法確立への橋渡しとなる様な研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延などにより研究計画を一部先送りする必要が生じたため。 具体的には、樹立したマウスモデルから肝臓、神経細胞のprimary cultureを行い、その細胞から細胞膜表面分画のタンパクを抽出してProteome解析を行う予定であった。これは名古屋市立大学にてサンプルを採取し、解析に関してはイギリスのブリストル大学で行う予定になっていたが、コロナウイルス、ロシアのウクライナ侵攻などの影響により温度管理下での国際郵便が遅延しており、安心して凍結サンプルを送付できない状況が続いている。このため、サンプル採取はしているが、今年度の予算は複数回の送付やその解析に充てる予定であったため、国際情勢が改善しないために次年度への繰り越しとなった。 次年度においては国際情勢を見ながらの判断となるが、サンプルを送付して解析を進める予定である。次年度にはProteome解析の結果や現在までのデータを踏まえて、マウスや細胞モデルを用いた機能解析を進め、病態の理解を進めていく。
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