本研究は、低年齢小児、特に5歳未満発症の中枢神経胚細胞腫症例の臨床的、分子遺伝学的特徴を明らかにする事を目的とした。 臨床情報については、発症年齢、画像所見、病理所見、予後情報をとりまとめ、分子遺伝学的解析については、腫瘍検体を用いて、遺伝子変異解析、網羅的メチル化解析、コピーナンバー解析を行い、これらを統合的に解析し、本集団におけるメチル化プロファイルによる分子分類の意義の検索、および治療標的となる分子異常の探索なども行った。
収集し得た合計16例のうち、4例は卵黄嚢腫瘍、12例で奇形腫であり、年長児症例では最も頻度の高いジャーミノーマは一例も認めなかった。腫瘍サイズが5㎝以上の巨大な腫瘍は合計6例認めたがうち4例は年長児では極めて稀な大脳半球腫瘍であった。再発は8例に認められたが、そのうち2例は初発から5年以上経過してから別のタイプの胚細胞腫瘍が発生する、いわゆるmetachronous germ cell tumorとしての再発であった。 分子遺伝学解析として、Oncomine Tumor Mutation Load Assayを用いて変異解析を行ったところ、1例にTP53変異、PTEN変異を認めた。また、Infinium MethylationEpic BeadChipを用いて網羅的DNAメチル化解析を行ったところ、奇形腫症例では、病理組織学的未熟性の有無によりメチル化プロファイルが異なることが示唆された。コピーナンバー解析では、年長児の中枢神経胚細胞腫瘍で高頻度に認められる12p gainについては、4例に認められ、それらは3例が卵黄嚢腫瘍、1例が再発を来した奇形腫であった。 これらの結果から、乳児期発症頭蓋内胚細胞腫は臨床的、分子遺伝学的に年長児とは異なる可能性が示唆された。
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