新生児低酸素性虚血性脳症(Hypoxic Ischemic Encephalopathy; HIE)は、分娩時に起因する脳性麻痺の主たる要因であるが、奏効率の高い治療法が確立されていない。HIEの病態形成には、脳内の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化が関与していることが知られている。ミクログリアは、炎症活性を有するM1タイプと抗炎症活性を有するM2タイプに分化誘導する。そこで、ファージディスプレイ法を用いてM1ミクログリアに選択的に結合するペプチド(MG1)を開発し、さらにアポトーシスを誘導する治療用ペプチド(KLA)を結合させ、この治療用ペプチド(MG1-KLA)がHIEに奏功するかを検討した。 C57BL/6Jの新生仔マウスの左総頸動脈の血流を遮断した上で、50分間の低酸素(10%酸素)暴露を行い、HIEモデルマウスを作成した。本モデル作成時に、温度を自動調節可能な低酸素チャンパーを使用することで、0.5℃というわずかな環境温度の変化で、HIEの重症度を任意に作成できることを見出した。さらに、それにはミクログリアの活性化が関与していることを明らかにした。本成果は新規性を有しFrontiers in Pediatricsに誌上発表した。 MG1-KLAの有効性についてはまずin vitroにて検証した。新生仔マウス脳からのマイクログリアの初代培養を行い、M1ミクログリアのアポトーシス効果を検討した。WST-8アッセイでは、M1ミクログリア選択的に生細胞数が濃度依存性に減少し、Annexin-Vアッセイでは、M1ミクログリアの24%がアポトーシスへと誘導されており、治療用ペプチドがM1マイクログリア選択的にアポトーシスに誘導することが確認できた。今後は、HIEモデルマウスへ治療用ペプチドの投与を行い、in vivoでの治療効果の検討を行っていく予定である。
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