研究課題/領域番号 |
20K16929
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
中川 俊輔 鹿児島大学, 鹿児島大学病院, 医員 (60789973)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核小体ストレス応答 / 小児急性リンパ性白血病 / 薬剤耐性 |
研究実績の概要 |
核小体ストレス応答はRPL11を介してDM2を抑制し,p53を活性化させる新たな癌抑制機構として近年注目されている。小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)ではTP53の変異がほとんど認められず,良い治療標的と考えられる。本研究は,核小体ストレス応答に着目し,小児BCP-ALLに対する新たな治療戦略を構築することを目的とした。 まず,小児BCP-ALLにおける核小体ストレス応答の抗腫瘍効果について解析した。TP53野生型のBCP-ALL細胞株であるNalm-6とRS4;11のRPL11をノックダウンすると, Actinomycin D(ActD)に対する感受性が低下し,P53タンパクとその下流の遺伝子発現が抑制された。また,ActDはNalm-6とRS4;11のリボソームRNAの発現を抑制した。さらに,ActDによってMDM2とRPL11の結合が増加することを免疫沈降法で確認した。以上の結果から小児BCP-ALLにおいても核小体ストレス応答が機能することが示された。 次に,9例の小児BCP-ALLの再発症例について,診断時と再発時の白血病細胞含有骨髄検体を用いて,RPL11の発現をRT-PCR法で比較したところ,7症例で診断時よりも再発時にRPL11の発現が低下した。ActDは小児BCP-ALLの治療に用いられないため,小児BCP-ALLの治療で用いる薬剤の中で核小体ストレス応答を誘導する活性がないかを検討した。その結果,6-mercaptopurine,methotrexate,daunorubicin,cytarabineの四種の薬剤がRPL11ノックダウンによって薬剤感受性が低下し,P53やその下流の遺伝子発現が抑制された。これまでの結果から,RPL11が小児BCP-ALLにおいて再発や薬剤感受性を予測するマーカーとなる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,研究開始時に次の3つを研究の主題として挙げている。①核小体ストレス応答が小児BCP-ALLの再発や治療感受性を予測する診断技術の確立,②核小体ストレス応答を誘導する新規化合物が小児BCP-ALLの治療となり得るか,③核小体ストレス応答による抗癌剤耐性化を解除する治療法の開発。 これまでの研究で,核小体ストレス応答の重要な因子であるRPL11が小児BCP-ALLに対する薬剤感受性を左右し,再発に関連することを明らかにした。 RPL11が予後予測マーカーとして役立つ可能性を示したが,薬剤耐性の解除についてはまだ研究の進捗が不十分である。しかし,小児BCP-ALLにおいて核小体ストレス応答が機能することや,RPL11が薬剤耐性や予後予測マーカーとなることは本研究の核となる検討事項であり,それを研究期間の半分で達成できた意義は大きく,その他の検討事項に確実につながると考えている。以上の点から,本研究の進展はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
RPL11がBCP-ALLの薬剤感受性に関与することが明らかとなったが,再発時にRPL11の発現が低下する理由は不明である。RPL11の発現調節機構を明らかにすることで,再発を予防する新たな治療戦略に役立てる。 核小体ストレス応答による抗癌剤耐性化を解除する治療法については,ActDとその他の抗腫瘍薬との併用療法が相乗効果を発揮することを明らかにする。現在の小児BCP-ALLに対する多剤併用化学療法においてActDは使用されていないが,今回の我々の検討において,ActDが小児BCP-ALL細胞株に対して高い抗腫瘍効果が得られることが明らかとなったので,現在治療薬にActDを併用することで治療効果が増強する可能性が考えられる。具体的には,小児BCP-ALLで用いられる複数種類の抗腫瘍薬にActDを追加すると,p53野生型BCP-ALL細胞株の薬剤感受性が高まることを明らかにする。
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