核小体ストレス応答はRPL11を介してMDM2を抑制し,p53を活性化させる新たな癌抑制機構として近年注目されている。小児B前駆細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)ではTP53遺伝子変異がほとんど認められず,良い治療標的と考えた。本研究は,核小体ストレス応答に着目し,小児BCP-ALLに対する新たな治療戦略を構築することを目的とした。 まず,TP53野生型のBCP-ALL細胞株であるNalm-6とRS4;11のRPL11をノックダウンすると,Actinomycin D(ActD)対する感受性が低下し,P53タンパクとその下流の遺伝子発現が抑制された。また,ActDによってMDM2とRPL11の結合が増加することを免疫沈降法で確認した。以上の結果から小児BCP-ALLにおいても核小体ストレス応答が機能することが示された。 次に,9例の小児BCP-ALLの再発症例について,RPL11の発現をRT-PCR法で比較したところ,7症例で診断時よりも再発時にRPL11の発現が低下した。次に,小児BCP-ALLの治療で用いる薬剤の中で核小体ストレス応答を誘導する薬剤を評価した。その結果,6-mercaptopurine,methotrexate,daunorubicine,cytarabineの4種類の薬剤において,RPL11ノックダウンによって薬剤感受性が低下し,P53やその下流の遺伝子発現が抑制された。再発時にRPL11が低下した1症例の骨髄検体で,RPL11はタンパクレベルでも再発時に診断時よりも発現が低下しており,それぞれの薬剤に対して,診断時はP53の発現が増加したが,再発時にはP53の発現が抑制された。さらに,再発時にはそれぞれの薬剤に対する感受性が低下した。これまでの結果から,RPL11が小児BCP-ALLにおいて再発や薬剤感受性を予測するマーカーとなる可能性が示された。
|