周産期・新生児医療の進歩により早産児の救命率は向上しているが、いまなおその神経発達予後は不良である。近年、白質傷害が存在しない早産児においても、正期産児と比べ神経発達予後が不良であることが明らかとなってきた。これは、早産そのものが脳の発達に悪影響を及ぼしている可能性を示唆しているが、そのメカニズムは十分に研究されていない。本研究では、早産によって生後のニューロン新生が低下するメカニズムを三次元微細形態解析、メタボローム解析、シングルセル遺伝子発現解析を用いて包括的に解明し、その神経再生を促進する治療法を開発する。2020年度、2021年度にかけて脳室下帯における三次元微細形態解析、メタボローム解析、シングルセル遺伝子発現解析について実験系を確立した。2022年度には共同研究者であるコペンハーゲン大学のKhodosevichらとシングルセル遺伝子発現解析について情報解析を進めた。脳室下帯に存在する複数の細胞種において、正期出生や早産によって発現が変動する遺伝子を抽出し、それらの情報をもとにGene set enrichment解析を行った。また、共同研究者である名古屋大学の財津桂准教授とシングルセル遺伝子発現解析とメタボローム解析との統合解析を行い、正期出生や早産によって生じる遺伝子発現変動や代謝変動におけるハブ分子を同定した。これらの情報解析から得られた候補分子を、脳室下帯細胞で操作する動物実験系を確立した。
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