研究課題/領域番号 |
20K16954
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
松田 秀岳 福井大学, 学術研究院医学系部門(附属病院部), 講師 (20464084)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肝癌微小環境解析 |
研究実績の概要 |
【肝癌の微小環境解析】肝切除を施行した肝癌38例(C型肝癌28例,C型肝炎ウイルス排除後肝癌10例)を対象とした.癌部と非癌部よりRNAを抽出し,次世代シークエンサーを用いて免疫関連分子の発現解析を行った.次に,腫瘍浸潤免疫細胞を解析するため計9種類の抗体(HLA-DPB1,CD68,CD163,CD11c,CD11b,CD14,CD4, CD8,FoxP3)による蛍光多重免疫染色を行った.癌部・非癌部におけるHLA関連遺伝子のRNA発現を解析した結果,非癌部においてはC型肝癌とウイルス排除後肝癌との間に差はみられなかったが,癌部においてはHLA class I,class IIともにウイルス排除後肝癌で発現が有意に低下していた(class I; 549 vs 320,p<0.001, class II; 324 vs 93,p<0.001).さらに癌部のCD4,CD8,CD68,FoxP3発現についてもウイルス排除後肝癌で有意に低下していた.これらの発現の違いについて蛍光多重免疫染色で解析したところ,C型肝癌の癌部ではHLA-DPB1陽性かつCD68,CD163陽性を示すM2 マクロファージとFoxP3陽性CD8細胞が多く浸潤しており,ウイルス排除後肝癌ではこれらの免疫抑制性細胞の腫瘍内浸潤が有意に低下していた.以上より,C型肝癌では腫瘍内にHLA分子を発現するM2 マクロファージやFoxP3陽性のCD8細胞が浸潤することにより免疫抑制性の微小環境が形成されていたが,ウイルス排除後肝癌ではこれらの特徴は明らかではないことが示唆された.また、肝癌微小環境との比較検討のため、COVID-19に伴って肝障害を発症した症例における肝内微小環境も解析した結果、門脈域の高度な成熟CD4/CD8陽性T細胞浸潤と類洞の拡張、肝細胞の小滴性脂肪変性を呈していたことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では肝癌75例での検討を目標としており,初年度となる令和2年度で38例を募集し,検討し得た.また,本研究の初年度の目標としていた,蛍光多重免疫染色を用いた肝癌組織中のHLA class II分子(HLA-DPB1)とCD4,CD8,FoxP3等の浸潤状況解析と,癌部/非癌部におけるHLA class I,class IIのRNA発現解析を,C型肝癌症例とC型肝炎ウイルス排除後肝癌症例との比較検討により実施し得た.さらには,肝発がん背景との比較検討を目的として,肝機能異常を発症したCOVID-19症例の肝内微小環境も解析することで,今後の解析をより深化させる端緒を掴み得た.以上より,現在までの進捗状況はおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
肝組織中の微小環境解析と並行して解析を予定していた,肝癌及び対照症例の血液検体を用いた経時的なCD4/CD8陽性T細胞とサイトカイン動態の解析と,血液中のHLA class Ⅰ, class Ⅱ,PD-1発現解析に着手する.また,令和3年度末から令和4年度の実施を予定していた,肝癌の治療経過と関連し得るHLA class II領域の一塩基多型探索を開始する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に実施予定である,肝組織中の微小環境解析,肝癌及び対照症例の血液検体を用いた経時的なCD4/CD8陽性T細胞とサイトカイン動態の解析,血液中のHLA class Ⅰ, class Ⅱ,PD-1発現解析,そして肝癌の治療経過と関連し得るHLA class II領域の一塩基多型探索に必要な試薬,備品の購入のため,支出が見込まれる.また,研究成果の公表や情報収集のために学術集会への参加を予定しており,その際に旅費を要することが見込まれる.
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