研究課題/領域番号 |
20K16972
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
金子 元基 東海大学, 医学部, 助教 (80869058)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患の腸内細菌叢とT細胞バランス / 腸内細菌叢におけるIgA結合細菌割合 / HLA型の関連解析 |
研究実績の概要 |
(1)患者腸内細菌叢でのIgA結合細菌の割合をフローサイトメトリー解析で調べた。結果、本学八王子病院で行った先行研究結果(JCI Insight 6:e148543, 2021)や米国の報告(Cell 158:1000, 2014; Sci Transl Med 9:eaaf9655, 2017)に一致しCDで高い結合率を示した。UCでは、低値から高値を示す症例に大きく分かれることが判明。便の提供から冷凍保存期間を長く空けずに解析することで、検出感度が上昇している可能性がある。 (2)患者便より、病原性共生菌の候補としての腸内細菌科菌体の単離培養を試みた。47例中14例にて、マッコンキー内地培養における同細菌科クローンを検出した。現在、菌体の同定を行うとともに、患者IgA画分との反応性を調べている。 (3)患者末梢血より得たDNAを用い、HLAクラスI(A/B/C)およびクラスII(DRB1 /DQB1/DPB1)の遺伝子多型より、HLA型を決定した。CDにおいて、DRB1*0405および同*0802の頻度が、日本人全体と比較し有意に高かった。前者は既報にて示された結果と一致しており、精度の高い解析結果が得られていると考えられる。UCについては、DRB1*1502が有意に高頻度であった。また、DRB1*0901は、逆にきわめて低頻度であることが新たに判明した。 (4)末梢血CD4+ T細胞の機能性分化について、フローサイトメトリー解析を行った。現在解析途中であるが、健常人集団に比較し、機能性T細胞(Th1/Th2/Th17)に対する制御性T細胞(Treg)の割合の低い症例が多い傾向を認めている。 (5)上記データおよび臨床データを用いた相関解析から難治性(PSL依存・抵抗性)UC症例において、有意にIgA結合細菌の陽性率が高いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
46例(CD、17例;UC、29例)の炎症性腸疾患患者より、血液・便の提供を受け、解析結果を得ている。現在追加で計70例の検体を解析中。コロナ禍でもあり、想定していた以上に患者の受診が不安定となりサンプルの収集に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
解析途中の結果ではあるが、CD患者では、共通してIgA陽性となる菌体の存在頻度が高く、病原性共生菌としての性状を有する菌体が多く存在する可能性が示唆された。今後、IgA結合細菌の同定を試み、その存在と病態や臨床データとの関連をさらに解析する。一方、UC患者の難治性に、腸内細菌叢のIgA結合性の高さが関連する可能性が示された。現在、IgA結合細菌は、宿主側への比較的高い接着性や侵入性を有する共生菌と考えられ、病原性共生菌を多く含む集団と想定されている。難治性UCには、病原性共生菌を高頻度に保持し、ステロイド抵抗性に関与する症例が含まれる可能性が考えられた。一方で、IBDいずれの患者集団においても、既報に示されたHLA型の偏りが観察された。よって、T細胞への抗原提示に関連した事象が、発症要因に含まれる可能性が考えられた。現在のところ、HLA型と相関する臨床データは確認されていない。HLAによって提示される抗原ペプチドの由来としての腸内細菌叢との関連が想定されることから、菌叢解析結果が必須と考えられる。現在、腸内細菌叢解析を行っており、各データの相関解析から、治療選択等への有用なデータが得られることを期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床サンプルの集積が遅れており次年度に消耗品を購入し継続予定
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