Programmed cell death Ligand 1 (PD-L1)を発現するがん細胞はProgrammed cell death 1 (PD-1)を介し細胞傷害性T細胞の抗腫瘍応答を抑制する。これら分子を標的とした抗体治療の効果は一部の症例に認められるが、難治性腫瘍の膵臓がんに無効であるため、新規治療戦略が求められている。 申請者らは(1)多くのヒト膵臓がん細胞株とヒト膵臓がん腹水由来のがん細胞株に、PD-L1の発現と腫瘍抗原Xの発現に逆相関がみられること、(2)膵臓がん細胞株(腫瘍抗原高発現、PD-L1低発現)にPD-L1を安定的に高発現させると腫瘍抗原Xの発現が低下することを見出した。そこで、本研究はPD-L1を発現する膵臓がんが、腫瘍抗原Xの発現を負に制御し、腫瘍抗原Xに対する抗腫瘍免疫から逃避するメカニズムを解明することを目的とした。 これまでに、以下のことを明らかにした。 PD-L1を安定的に高発現させると腫瘍抗原Xの発現が低下した膵臓がん細胞株において、蛋白質合成阻害剤シクロへキシミド存在下でプロテアソーム阻害剤MG132を加えると、腫瘍抗原Xの蓄積を認めた。一方、オートファジー阻害剤のクロロキンをシクロへキシミド存在下で加えると、腫瘍抗原Xの発現に変化を認めなかった。よって、PD-L1の高発現により、ユビキチン・プロテアソーム系が活性化され、腫瘍抗原X蛋白質の分解を促進したと考えられ、この機序によりPD-L1を発現する膵臓がんが、腫瘍抗原Xを負に制御すると考えられた。
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