研究実績の概要 |
芳香族炭化水素受容体 (Aryl hydrocarbon receptor, AhR) は血球細胞・非血球細胞など生体内のほぼ全ての細胞に発現する転写因子である。AhRリガンドは環境内に幅広く分布しており、ダイオキシン類・トリプトファン代謝産物・植物由来生薬がその代表的なものである。AhRの活性化は発癌・代謝・免疫に様々な影響を及ぼすが、免疫制御因子としてのAhRの役割に注目が集まっている。というのも、AhRの活性化は制御性T細胞の誘導やIL-10の産生促進を介し、有害な免疫反応を抑制するからである。また、AhRの活性化はIL-22の産生を介して、腸管バリア機能の保持に寄与する。このように、「環境因子センサーAhRの活性化」を用いた免疫制御療法の開発に大きな期待が寄せられている。 腸内細菌はトリプトファン代謝に関わりAhRリガンドを合成することから、消化器疾患の発症にAhRの活性化が関与すると考えられてきた。実際にAhR欠損マウスは大腸癌・腸炎に対する感受性が高いことが判明している。さらに、AhR活性化能を有する青黛(植物由来の生薬)の投与が潰瘍性大腸炎患者の寛解導入に有用であることも証明された。(Gastroenterology 2018;154:935-47)。このように、「青黛によるAhRの活性化」が潰瘍性大腸炎の治療に臨床応用されつつある。申請者らは青黛を含む3種類のAhRリガンドの投与が実験的自己免疫性膵炎の発症を強く抑制することを見出した。また、膵組織におけるAhRの活性化は膵臓腺房構造の恒常性の維持に必要であることも明らかにした。このように、青黛投与が自己免疫性膵炎の新規治療法として有望であることが示唆される。
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