2022年度は2021年度に引き続きヒトにおいて、食道胃接合部の生検を行い、胃液を採取し、膵上皮化生のある症例とない症例で胃液中の総胆汁酸の濃度や胆汁酸分画を比較することを目的としたが、人の食道胃接合部の生検検体について膵上皮化生が見られる症例を十分に蓄積できなかった。手術標本では時折膵上皮化生を認めることがあるが、生検検体で採取できる組織の大きさは3mm台程度であり、小さな組織では膵上皮化生を含んだ組織を採取できなかったためと考えた。そのため、膵上皮化生を認めた症例と認めなかった症例の胆汁酸の分画の差を同定するまでは至らず、ラット胃組織に対して3D培養システムを用いて初代培養し、胆汁酸刺激を加えて、膵上皮化生を誘導する遺伝子を同定することはできなかった。そこで食道胃接合部の評価は断念し、以前大分大学医学部消化器内科学講座で1998年1月1日から2019年12月31日までに胃粘膜から採取した生検組織5930例について人での膵上皮化生の発生頻度と患者背景を検討し、論文化した(BMC Gastroenterol. 2022 Jun 7;22(1):289.)。この結果、胃前庭部に膵上皮化生が発生しやすいことが示された。胃前庭部は日常診療では胆汁逆流が見られやすい箇所であることから、胆汁酸が膵上皮化生の発生に関与している可能性を考えた。そこで今後胃前庭部で膵上皮化生を認めた症例と認めなかった症例の胆汁酸の分画の差を同定することが望ましいと考えたが、われわれの検討では生検検体における胃前庭部での膵上皮化生の出現率は0.56%であり、症例の蓄積には時間がかかると考えている。
|