研究実績の概要 |
肝細胞株CL2に対してパルミチン酸を負荷すると、脂肪滴の蓄積に加えてCaspase 3/7活性の上昇およびAnnexin V陽性細胞の増加を伴いアポトーシスが亢進した。このLipoapoptosisに対するω-6脂肪酸の影響を検討するためにω-6脂肪酸であるリノール酸(LA)、γリノレン酸(γLA)、ジホモγリノレン酸(DGLA)、アラキドン酸(AA)を添加したところ、いずれの脂肪酸においてもCaspase 3/7活性の低下とAnnexin V陽性細胞数の低下を認め、その程度はAA,DGLA,γLA,LAの順であり、ω-6脂肪酸の後期代謝物ほどその効果は強かった。特にAAに関しては、パルミチン酸投与により生じるオートファジー抑制の改善も見られた。また、CL2に対するパルミチン酸負荷によりω-6脂肪酸代謝酵素であるFads2, Elovl5, Fads1はいずれも発現亢進が見られた。そこで Fads2, Elovl5, Fads1をsiRNAによりノックダウンを行い細胞死への影響を検討したところ、アポトーシスの増悪を認めた。 次にマウスモデルとして、野生型マウスおよびヒト肝細胞キメラマウスに対して高脂肪食を2ヶ月負荷する脂肪肝モデルにおける肝組織内のω-6脂肪酸代謝酵素遺伝子発現を検討した。野生型マウスではFads2, Elovl5, Fads1のいずれも発現が増加し、ヒト肝細胞キメラマウスのヒト肝細胞ではFads2とFads1だけが発現亢進した。また、野生型マウスに高脂肪食負荷後に30%エタノールの経口大量投与を行うと、肝組織においてFads2とFads1の発現が著明に低下し、肝細胞アポトーシスの亢進を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
In vitroの実験としては、CL2および初代培養ヒト肝細胞に対するパルミチン酸投与時に生じるLipoapoptosisに対するリノール酸の肝細胞保護効果が、ω-6脂肪酸代謝酵素のノックダウンにより消失するかどうかを検討する。また同時にオートファジーおよびその関連タンパク、アポトーシスおよびその関連タンパク発現を検討し、ω-6脂肪酸代謝がLipoapoptosisに及ぼす影響に関するメカニズムに迫る。また、BODIPY 493/503染色による脂肪滴染色を行うことにより、ω-6脂肪酸代謝が脂肪蓄積量に及ぼす影響についても検討する。 In vivoの実験としては、エタノールの単回投与により肝組織のFads2, Fads1が著明に低下した事象に着目し、血中各種サイトカインの変化や血中エクソソーム内miRNAの変化などを測定することによりFads2, Fads1の発現制御機序を検討する。Fads2, Fads1の発現制御の候補因子についてはIn vitroで再検証を行う。 また、臨床検体を用いた解析として、非アルコール性脂肪性肝疾患患者の血液ゲノムを用いてFads2, Elovl5, Fads1の発現に影響する遺伝子多型を解析し、臨床情報との関連を検討する。また、肝組織を入手できるサンプルに関して、肝組織中のFads2, Elovl5, Fads1の遺伝子発現を検討し、臨床情報との関連を検討する。
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