前年度に実施した高脂肪食摂取マウスにおいてFads2およびFads1の発現上昇がみられた結果を受け、高脂肪食摂取マウス肝組織の脂肪酸組成を検討したところ、高脂肪食摂取マウスでは肝組織中アラキドン酸(AA)量が著明に増加しており、高脂肪食負荷後に30%エタノールの経口大量投与を行ったマウスでは肝組織中AA量がさらに増加した。 続いて、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者サンプルを用いて、ω-6脂肪酸の意義を検討した。NAFLD症例約60例の組織学的に非アルコール性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が鑑別できた症例において、血清中のジホモγリノレン酸(DGLA)量とAA量、血液ゲノムを測定した症例についてFads1のrs174537遺伝子多型、肝組織中mRNAが測定できた症例についてFads1のmRNA発現を検討し、臨床背景との比較を行った。NASH群はNAFL群に比較して血清AA/DGLA比が高値であった。血清AA/DGLA比によりNASHを予測するAUROCは0.664であり、血清AA/DGLA比3.65カットオフとすると、感度79%、特異度56%でNASHを鑑別可能であった。NAFLとNASHの鑑別としてロジスティック回帰分析により評価したところ、FIB4-indexと血清AA/DGLA比が有意な因子として抽出された。Fads1のrs174537遺伝子多型を検討したところ、GG群はGT群に比し血清AA/DGLA比が有意に高く、TT群は3群の中で最も血清AA/DGLA比が低く、全例がNAFLであった。また、血清AA/DGLA比と肝組織中Fads1 mRNA量には正の相関がみられた。 初年度に実施したin vitroの実験においてはアラキドン酸は肝細胞保護効果が見られたが、in vivoの結果および本年度の患者サンプルの結果を踏まえると、Fads1活性が高くアラキドン酸含有量が多い状態において肝障害が強く誘導され、NAFLDの病態増悪が見られた。その機序については肝マクロファージの非実質細胞などの関与が推測されるが、引き続き更なる検討を要する。
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