研究課題/領域番号 |
20K16996
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
林 佐奈衣 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 学術研究員 (10597587)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | B型肝炎ウイルス / 核酸アナログ / テノホビル / 変異 / 耐性 / genotype |
研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)の推奨治療薬である核酸アナログ(NAs)はHBVのDNA複製を抑制するが、長期投薬においてNAs耐性HBV株の出現による治療不応が問題視されている。研究代表者は、現在臨床で推奨されるテノホビル(TDF)に対して抵抗性を示す複数のB型慢性肝炎(CHB)症例より新規の変異パターンを検出し、これらの変異がTDF耐性に与える影響を検証した。 1) TDF治療不応例より樹立したHBV発現プラスミド(TDFr original)に対して、TDF不応症例で認められた変異パターンを組み込み(TDFr-1)、ウイルス学的特徴づけおよびTDF感受性を評価した。2) 全国多施設病院で多剤不応を呈したB型慢性肝炎患者34例を対象としウイルス学的解析を行った。 1)で樹立した新規HBV発現プラスミドをHuh7細胞へトランスフェクションし、細胞内ウイルス複製量をサザンブロット法により評価した。コントロールとして、当室で樹立したHBVDNA genome(AB246345)、既知ADV耐性1株(A181T/N236T)およびETV耐性2株(S202G/L180M/M204V)、(A186T/L180M/M204V)を用いた。その結果、AB246345と比較して、細胞内ウイルス複製量はTDFr original株:53.1%、TDFr-1株:26.7%とHBV複製効率が減弱することが示された。TDF感受性を比較検討した結果、TDFr original株およびTDFr-1株は、既知ADV耐性1株およびETV耐性2株よりもTDF感受性の低下を呈した。 2) LAM+ETV不応症例23例、LAM or ETV+ADV不応3例、ETV+TDF or TAF(±ADV)不応8例を対象にHBV解析をした結果、既知変異保有25例のうち20例で新規RT変異が検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は全国多施設病院で問題となっているTDF不応のB型慢性肝炎患者よりバックボーンとなる新規HBV発現プラスミド(TDFr original)を樹立し、TDFr originalに対するTDF関連変異パターンの導入(TDFr-1)が完了した。in vitroにおいてこれらのウイルス学的特徴づけおよび、TDFに対する薬剤感受性評価を行った結果、既知耐性変異株と比べて、TDFr originalおよびTDFr-1のTDF感受性が低下することを明らかにした。 さらに、全国多施設病院で多剤不応を呈したB型慢性肝炎患者を対象とし、ウイルス学的解析を行った結果、いずれの多剤耐性患者群においても新規RT変異が高率に検出されることを見出した。今後は、新規RT変異株がTDF抵抗性を示すか検証し、TDF不応例のウイルス学的メカニズムを明らかにする。以上のように次年度の研究の方向性が絞られており、研究計画はおおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果によりTDFr originalおよびTDFr-1のTDF感受性が、既知耐性変異株と比べて低下することを明らかにした。 今後は、多剤不応を呈したB型慢性肝炎患者で高率に認められた新規RT変異を含むクローンを樹立し、サザンブロット法により新規RT変異のTDF感受性試験を試みる。TDF存在下におけるHBV複製効率を検討し、新規RT変異を含むHBV株が実際にTDF抵抗性を示すか検証することにより、現在臨床で問題とされるTDF不応例のウイルス学的メカニズムが明らかになり、現存治療薬の最適な選択が可能となる。またTDF耐性変異のgenotype依存性について新しい情報が得られると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。 次年度は多種のHBV発現プラスミドを樹立し、トランスフェクション評価系を用いて細胞内外のHBV発現量を解析するため、主にクローニングおよび培養細胞を用いたin vitro実験に必要な各種関連試薬、プラスチック/ガラス製品、サザンブロット関連試薬などの購入のため、物品費を計上する。
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