本研究では、食道扁平上皮の発癌から治療後瘢痕までの遺伝子変異の詳細を明らかにすることを目的とした。 食道SCCに対して、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した19症例のSCCと背景粘膜、3~12か月後のESD後瘢痕から組織を採取した。In houseで作成した食道癌関連69遺伝子を対象として次世代シークエンス解析を行い、白血球をコントロールとして体細胞変異を同定した。 SCCでは32遺伝子77変異、背景粘膜では34遺伝子133変異、瘢痕部では29遺伝子100変異を認めた。SCCでは14例20変異、BMでは10例16変異、RMでは11例7変異でoncogenicな変異が同定された。4症例においては背景粘膜と瘢痕に同一遺伝子座の変異を認めた。一方で、全周ESD後の1症例では瘢痕で変異が全く存在しなかった。 全変異に対する推定ドライバー変異の割合は、RMで有意に低かった(SCCで26%、BMで12%、RMで7%、p = 0.009)。さらに、TP53 putative driver mutationを有する症例の割合は、RMで有意に低かった(SCCで63%、BMで37%、RMで16%、p = 0.011)。TP53の推定ドライバー変異の割合と推定ドライバーを有する症例の割合は、RMで有意に低かった。 背景粘膜と変異が共通する瘢痕もある一方、変異数が減少していたり、全周ESD後の瘢痕では変異がキャンセルされている症例も認めた。瘢痕部においては発癌リスクが軽減されている可能性も考えられた。
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