研究課題
研究代表者は、これまでにヒト肝生検組織を用いた検討で、肝細胞からの胆汁酸排出を司るトランスポーターbile salt export pump (BSEP)の肝内発現がNAFLDの進行に従い低下することを報告し、BSEPがNASHの病態形成に関わる可能性を報告してきた。本研究では、この機序の解明を目的としてBsepヘテロノックアウトマウスを作成し高脂肪食負荷による変化を検討した。その結果、高脂肪食摂取下のBsepヘテロノックアウトマウスは野生型マウスに比較して、体重増加が緩やかとなり肝脂肪化も軽減していた。通常食摂取群では同様の変化を認めなかった。予想外に肝内の胆汁酸濃度はBsepヘテロノックアウトマウスで低下していた。胆汁酸代謝について、肝内のFarnesoid X receptor (Fxr)やMultidrug resistance-associated protein 2の遺伝子発現は、高脂肪食摂取Bsepヘテロノックアウトマウスで野生型マウスに比較して亢進していた。さらには、回腸末端でのFxrおよびその下流に位置するIntestinal bile acid-binding proteinの発現も、高脂肪食摂取Bsepヘテロノックアウトマウスで亢進していた。さらには、腸内細菌叢解析において、高脂肪食摂取により細菌叢の多様性を示すShannon Indexが著しく低下していたが、特にBsepヘテロノックアウトマウスでの低下が目立った。また、高脂肪食摂取BsepヘテロノックアウトマウスではActinobacteria門のCoriobacteriaの一種が増加していた。本モデルのさらなる解析が胆汁酸代謝を基盤としたNASH病態の解明に有用であると考えさらなる検討を加えたい。
3: やや遅れている
本研究は、Bsepヘテロノックアウトマウスを用いて、胆汁酸排出型トランスポーターであるBSEPのNASH病態における役割を解明することを目的としている。現在、胆汁酸代謝と強い関連を持つGut-Liver-Axisに着目して腸内細菌叢の解析を行い、腸内細菌叢の多様性の低下および特定の菌種の増加という興味深い知見を得るに至った。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の流行によりマウスの繁殖に支障が生じたり、適切な実験開始時期に研究が困難であったことから、腸内細菌叢の変化が胆汁酸および脂質代謝にどのような影響を及ぼしているのかのメカニズム解明にはまだ到達できていないのが現状である。
胆汁酸は腸肝循環の過程において肝臓と腸管を繋ぐシグナル伝達にも寄与していることが知られている。本研究では、胆汁流の要であるBSEPの発現抑制及び高脂肪食摂取によって生じた肝臓・腸管・血清といった全身における胆汁酸分画の変化、さらには一次胆汁酸から二次胆汁酸への代謝に重要な役割を果たす腸内細菌叢に着目している。これまでの検討で得られた高脂肪食負荷に対するBSEP発現低下の保護的作用のメカニズム、特に腸内細菌叢との関連性を明らかとすることを通して、NAFLD・NASHの病態解明に加えて、Gut-Liver-Axisと称される肝臓と腸管の相互作用の解明に、胆汁酸代謝の視点から寄与したいと考えている。今後は、現在検討を行っているBsepヘテロノックアウトマウスに加えて、CRISPR/Cas9システムを用いてBSEPと類似の胆汁酸排出機能を有するトランスポーターMRP2についてもダブルノックアウトを行ったマウス(Bsep-Mrp2-ダブルノックアウトマウス)の作成を進めており、本新規モデルにおいて代償機構の破綻から、肝細胞にさらなるストレスがかかり、脂肪化および炎症の増悪、つまりヒトNASHの病態が再現されるのではないかと予想して、検討を進めたいと考えている。具体的な研究計画として、これらのマウスを用いて、高脂肪食または通常食摂取下における、肝臓・小腸(特に胆汁酸の再吸収が行われる回腸末端部)・腸管内容物(小腸および直腸)および血清の採取を行う。これらにおいて液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析(LC-TOFMS)にて胆汁酸分画を解析する。肝臓・小腸における胆汁酸および脂質代謝関連遺伝子の遺伝子およびタンパク発現解析に加えて、腸内細菌叢の解析には、腸管内容物(小腸および直腸)から核酸を抽出し16S rRNA系統解析を行い、特に腸内細菌叢の変化が胆汁酸・脂質代謝に影響を及ぼすメカニズムの解明に寄与したい。
新型コロナウイルス感染症の流行によりマウスの繁殖なども含めて研究計画にやや遅れが生じたが、本年度内において次年度に検討すべき試料は概ね確保できており、次年度に速やかに研究の遂行の予定である。特に腸内細菌叢の解析と胆汁酸分画を含むメタボローム解析に注力していきたいと計画している。
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