研究実績の概要 |
進行した食道癌は予後不良であり、治療成績と生存率の向上には早期発見と治療が重要である。表在型食道癌の早期診断に内視鏡検査は重要であるが、観察者間内での存在診断と腫瘍の深達度・脈管浸潤の正確な診断判定は困難である。この課題の克服のため、表在型食道癌の正確な診断のための新たなバイオマーカーの開発が望まれる。本研究では,食道内視鏡的粘膜下層剥離術の術前に得られた腫瘍組織と隣接する正常組織のマイクロRNA(miRNA)の発現プロファイルを比較した。その中から複数のmiRNAについて食道扁平上皮癌細胞株(KYSE-150, KYSE-180, KYSE-850)を用いて機能解析を行った。その結果、表在型食道癌の腫瘍組織と正常組織では、27種類のmiRNAの発現が増加、21種類のmiRNAの発現が低下しており、異なるmiRNAの発現プロファイルを示した。なかでも腫瘍組織ではmiR-21-5pとmiR-146b-5pが有意に増加し、miR-210-3pが有意に減少しており、食道扁平上皮癌細胞株でも同様な傾向が見られた。またmiRNAの発現と食道癌の深達度および脈管侵襲との間には有意な関連が検出された。よって、これらのmiRNAが早期食道癌の腫瘍増殖・浸潤などのメカニズムに関与していることが推測された。そこで、食道扁平上皮癌細胞株にmiR-21-5pとmiR-210-3pのmimicsあるいは阻害剤などを用いて遺伝子導入の実験を実施した。その結果、miR-21-5pとmiR-210-3pが食道扁平上皮癌細胞株の細胞増殖と細胞浸潤に与える影響は限定的であった。これらの結果から表在型食道癌において異なるmiRNAの発現プロファイルを形成しており、診断バイオマーカーとし役割を果たす一方で、表現型への関与は限定的であることを示唆している。
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