膵癌は予後が非常に悪い癌腫として知られる。その一因として肝転移が多いことが知られ、肝転移の制御が喫緊の課題となっている。 申請者らは膵癌発症モデルKPCマウスの膵癌細胞株を用いた検討を行った。KPCマウス膵癌細胞株をマウスへ移植することで、肝臓高転移細胞株を作製した。高転移細胞株はコントロールと比較し、上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition: EMT)マーカーの発現や遊走能に違いを認めた。実際のマウスにおける肝転移巣においても分化度が異なっていた。この肝臓高転移細胞株とコントロールについてRNA-seqを行い遺伝子発現を網羅的に解析し、発現変動遺伝子 (differentially expressed genes: DEGs)を抽出した。GSEA解析、GO解析を行ったところ、EMTや血管新生などに関連するシグナルの変化が示唆された。DEGsのうちのいくつかに着目し、KPCマウス膵癌細胞株において遺伝子の過剰発現、CRISPR/Cas9を用いたノックアウトを行い、肝転移能への影響を検討している。 また、ヒト膵癌原発巣の病理組織におけるRNA-seqを行った検討で、術後肝転移が出現した患者で発現が多い遺伝子を抽出することができた。それらの遺伝子をKPCマウス膵癌細胞株で過剰発現およびノックアウトし、肝転移能に与える影響について、解析を行っている。 今回の研究期間内には明らかにできなかったが、これらの検討を組み合わせることで肝転移指向性のある膵癌細胞の特徴やそのメカニズムを明らかにしたい。
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