研究課題
本研究の目的は、本講座で作製したCCL20欠損マウスを用いて、炎症性腸疾患の病態形成に関するCCL20の生理的役割を明らかにすることである。まず、昨年度は、CCL20欠損マウスを用いて、CCL20の腸管組織の恒常性における生理学的役割を明らかにするために定常状態における腸管組織のリンパ球の局在の解析に着手した。我々は、パイエル板でのCCL20の発現が高いことと、CCL20欠損マウスのパイエル板が低形成となることを見出しているため、パイエル板よりリンパ球を単離し、フローサイトメトリー法によりリンパ球のサブセットの割合や局在を解析した。CCL20欠損マウスと野生型マウスのパイエル板中のB細胞、T細胞の割合を比べたところ共に大きな差はみられなかった。今年度では、CCL20欠損マウスを用いDSS腸炎を誘導しその病態を野生型およびCCR6欠損マウスと比較解析した。腸炎誘導後、野生型マウスに比べCCL20欠損マウス及びCCR6欠損マウスの体重は著しく減少し、その減少幅はCCL20欠損マウスでより顕著であった。一方、腸炎スコアは野生型マウスに比べいずれの欠損マウスでも著しく重症化し、その重症度は両欠損マウスの間で同程度であった。腸炎の重症度を反映する大腸の長さを計測したところ、DSS投与後の大腸の短縮は野生型マウスに比べCCL20欠損マウス及びCCR6欠損マウスでより短縮した。これと一致して、HE染色による病理所見においても、野生型に比べCCL20欠損マウス及びCCR6欠損マウスの大腸粘膜には潰瘍部分が広範に認められ重症化が示唆された。さらに、腸炎誘導後のCCL20欠損マウスのパイエル板中のT細胞はCD4陽性T細胞の割合が野生型に比べ有意に低下していることをフローサイトメトリー法により確認した。
2: おおむね順調に進展している
2年度目までに、CCL20欠損マウスを用いて、定常状態における腸管組織のリンパ球の局在をパイエル板に着目して解析した。CCL20欠損マウスのパイエル板よりリンパ球を単離し、フローサイトメトリー法によってリンパ球のサブセットの割合や局在を解析した。CCL20欠損マウスと野生型マウスのパイエル板中のB細胞、T細胞の割合を比べたところ共に差はみられなかった。現在別の組織についても詳しく解析中である。また、CCL20欠損マウスを用いDSS腸炎モデルマウスを作製しその病態を野生型およびCCR6欠損マウスと比較解析した。体重減少率、病態スコア、大腸の長さ、病理所見から野生型マウスに比べてCCL20欠損マウスの腸炎はCCR6欠損マウスと同様に増悪化することが示された。さらに、腸炎誘導後のCCL20欠損マウスのパイエル板中のT細胞はCD4陽性T細胞の割合が野生型に比べ低下していることをフローサイトメトリー法により確認した。この病態のメカニズムについてさらに詳しく解析するため、リアルタイムPCR法による腸炎誘導後の腸組織でのサイトカインの発現量を解析している。加えて、昨年度購入したgentleMACSを使用することで腸管組織より安定的にリンパ球の分離が可能になり、腸における詳しい細胞の局在を解析中である。このことから、炎症性腸疾患の病態形成に関するCCL20の生理的役割の解析は順調に進んでいるといえる。
次年度では、より詳しい定常状態における腸管組織のリンパ球の局在を解析する。現在までにパイエル板の細胞の解析を行ったが、引き続きパイエル板のさらなる解析に加え、他の腸管組織での定常状態におけるリンパ球の局在を解析し、CCL20の腸管組織の恒常性における生理学的役割を明らかにする。そのため、腸間膜リンパ節、粘膜固有層、腸管上皮細胞よりリンパ球を単離し、フローサイトメトリー法によってリンパ球のサブセットの割合や局在を解析する。また、CCL20欠損マウスとCCR6欠損マウスでのDSS誘導腸炎の重症化のメカニズムを調べる。現在までに、欠損マウスでの病態の増悪化や、腸炎誘導後のCCL20欠損マウスでのパイエル板のCD4陽性T細胞の割合の低下が分かっているが、さらに詳細にフローサイトメトリーで解析し、原因となる細胞集団を同定する。さらに、リアルタイムPCR法による腸炎誘導後の腸組織でのサイトカインの発現量の解析を行い機能との関係性を調べる。この解析により、CCL20欠損マウスのDSS腸炎の増悪化のメカニズムを解明しその結果を英文学術誌へ投稿する。
腸炎誘導モデルマウスの作製が比較的スムーズに進行し、その解析についても順調に進んでいるため、経費を節約することができた。また、gentleMACSを使用することで安定的なリンパ球の分離が可能になり、経費の節約につながった。また、当該助成金は請求した助成金と合わせ、主に消耗品および実験動物飼育管理費等として次年度に使用する予定である。
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