研究実績の概要 |
本研究では、近年急増している脂肪肝炎と予後増悪因子である加齢性筋萎縮(サルコペニア)の病態の関連を明らかにするために、脂肪供給過多を背景とした肝臓の代謝系の破綻に伴う栄養素の再配分障害が骨格筋の栄養障害を来すとの仮説に基づき実験を進めた。令和4年度は、ヒトのサルコペニアの特徴である速筋優位の筋萎縮をきたす加齢マウス+HFDモデル (Ishizuka K, Kon K et al. J Gastroenterol Hepatol. 2020) を用いた基礎的検討を行った。高脂肪食を摂取した55週齢のC57Bl6/Jマウス(加齢マウス)の肝組織は高脂肪食を摂取した若年マウスと比べて顕著な脂肪肝炎の増悪をきたし、さらに四肢の筋力の低下と腓腹筋線維の横断面積の減少、サルコペニアに特徴的な速筋/遅筋の重量比の減少を認めた。腓腹筋組織を用いた解析では、骨格筋のIL6およびTNFαの発現が亢進していることが明らかになった。肝組織ではmyotrophic factorとして知られるIGF-1およびヘパトカインの一つであるselenoprotein Pの発現が減少する一方で、骨格筋内のユビキチンリガーゼ(Atrogin-1、MuRF-1)およびselenoprotein Pの受容体であるLRP1のmRNA発現が亢進していることが明らかになった。これらの事象から、高齢・高脂肪食負荷の状況では肝組織内における脂質代謝の不均衡とそれによる肝内脂質の量的・質的変化、脂肪毒性を増悪が脂肪肝炎の進展に寄与しただけでなく、IGF-1およびヘパトカインの発現を変化させることで骨格筋組織の炎症およびユビキチン化を促進し、骨格筋萎縮を惹起したことが示唆された。これらの結果は肝由来の因子が骨格筋組織のユビキチン化を惹起し、肝筋連関により脂肪肝炎患者の筋萎縮を生じる可能性を示した。現在英文誌への投稿準備中である。
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