研究課題
亜鉛は生体組織内に広く分布し、多くの金属酵素の構成成分として存在し様々な生理機能に密接に関与している。C型肝硬変・肝癌・アルコール性肝障害の患者では血清亜鉛濃度が著明に低値を呈することが知られており、亜鉛の投与で血清アンモニア値の有意な低下や、肝線維化予防、肝発癌予防が報告されている。当教室ではこれまで、先天性銅代謝異常症であるWilson病患者の診療に従事しており、以前より亜鉛の肝細胞保護作用について検討を行っており、亜鉛投与が過剰な銅による酸化ストレスや小胞体ストレス、細胞死を改善することを報告している。Wilson病では脂肪肝を合併することがあり、また近年、非アルコール性脂肪性肝炎からの発癌も増加しており、脂肪性肝炎に対する治療対策は喫緊の課題である。我々はこれまでに、肝培養細胞を用いて、蛋白分解系の一つであるオートファジーに着目し検討を行ってきた。過剰な銅や飽和脂肪酸がオートファジーの後期段階を障害し、また亜鉛投与に小胞体ストレスや酸化ストレスの軽減と共にオートファジー障害が改善することを報告した。本研究では、過剰な銅及び飽和脂肪酸による肝細胞障害に対する亜鉛の作用について、オートファジー及び小胞体ストレス、酸化ストレスに着目し病態解明のためさらなる検討を行う。
3: やや遅れている
肝培養細胞を用いて、過剰な銅および飽和脂肪酸が与えるオートファジー障害に対する亜鉛の改善機序に着目し検討を行っている。まずは過剰な銅や飽和脂肪酸に対してオートファジー調整薬(Bafilomycin A1、3-Methyladenine、Hydroxychloroquine、Rapamycin、Trehalose)を投与し、小胞体ストレスや酸化ストレス、細胞死について検討中である。オートファジー障害の機序として、オートファジーやリソソーム生合成を転写レベルで制御するマスターレギュレーターである転写因子TFEB(Transcription factor EB)に着目し検討を行っている。これまでの検討で、過剰な銅や飽和脂肪酸は肝培養細胞に対してTFEBの発現を低下させる可能性を認めている。また、我々はこれまで飽和脂肪酸によるオートファジー障害の原因として小胞体膜のカルシウム輸送蛋白であるSERCAに着目し検討を行っており、飽和脂肪酸とSERCAの機能低下との関連を報告している。現在、SERCA阻害薬とTFEBとの関連を検討中である。
mTOR阻害薬やカルシニューリン阻害薬を用いてTFEBを調整し、過剰な銅や飽和脂肪酸とTFEBとの関連を検討する。また、亜鉛投与によるTFEB発現の影響についても検討する。
実験で使用する試薬について、研究の進歩状況により未使用額が発生したため。翌年度分として請求した助成金と合わせて、必要な試薬を購入し、in vivoでの検討も行う予定である。
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Nutrients
巻: 13 ページ: -
10.3390/nu13030993
Medical Molecular Morphology
巻: - ページ: -
10.1007/s00795-020-00271-5