本研究では、肝細胞のヘテロ不均一性(heterogeneity)に着目した新規解析法を用いて、肝細胞癌患者の切除肝標本の非癌部ならびに癌部を解析し、染色体量(ploidy)の変化と慢性肝障害の進行や発癌との関連を解明することで、その病態進行の機序を明らかにすることを目的とする。これまで、転移性肝癌切除標本の非癌部を慢性肝障害のないコントロール群としてploidyとzonationの関連性の評価のために、非アルコール性脂肪性肝疾患の非癌部を5例、直腸癌の転移性肝がんの非癌部を5例解析した。2年目はさらに空間的遺伝子解析としてVISIUMを利用し、新たに4例の非アルコール性脂肪性肝疾患の非癌部の手術標本の新鮮凍結切片を用いたが、遺伝子品質にばらつきが大きく、通常のt-SNE解析に加えて、組織切片上で門脈域の線維化をランドマークとして遺伝子解析スポットの各距離を変数としてclusteringを行なったが特徴的な遺伝子群は見出せなかった。3年目は、パラフィン標本を用いたVISIUMを用いた解析を10例行なった。凍結切片を用いたVISIUMにくらべてサンプル品質に堅牢なシステムであった。一方、これまでシングルセル解析を行うために慢性肝疾患モデルマウスの肝組織を用いてサンプル調製法をいくつか試行したものの、慢性障害肝細胞とくに脂肪性肝炎モデルにおける肝細胞の分取においては細胞の肥大と物理刺激に脆弱なためコラゲナーゼあるいはリベラーゼ処理では容易に細胞膜が破壊され核のみ単離される状態となった。シングルセルと同様にシングル核RNA-seq解析をおこなうこともできるが、現状では元となる細胞が2あるいは多核肝細胞か単核の肝細胞かを類推する方法がないためシングルセル解析は施行できなかった。
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