既報を参考に、全8週間培養を維持した。経時的観察で、上皮下αSMA陽性細胞が6週目に出現し、8週目に帯状構造を形成したことから、ヒトiPS細胞由来の粘膜筋板を伴った胃オルガノイドを作製できた。RNA-seqで経時的に解析すると、胃上皮マーカーの発現は平滑筋マーカーの発現より先に認められ、上皮由来の因子が関与しているという仮説を立てた。まず、免疫染色で上皮にソニックヘッジホッグやTGF-β1の発現を確認し、3週目からヘッジホッグ(HH)シグナル阻害剤シクロパミンやTGF-βR1阻害剤SB431542を培地に添加すると、αSMA陽性の上皮下紡錘形細胞が減少した。これらから、上皮由来のHH・TGF-βシグナルが、胃オルガノイド上皮下のαSMA発現を亢進させ、粘膜筋板を形成すると考えられた。3週目の胃オルガノイドを接着プレートに移し、2週間培養すると胃オルガノイド周囲に紡錘形細胞が認められ、免疫染色にてαSMA陽性であった。機械的環境で平滑筋細胞へと分化したことが示唆された。 SB431542投与で胃オルガノイドのGLI1陽性上皮下紡錘細胞が減少したことから、TGF-βシグナルとHHシグナルが、粘膜筋板の誘導に協調的にも作用することが示唆された。また、RNA-seqの発現変動遺伝子でパスウェイ解析やGene Set Enrichment Analysisを行うと、細胞外基質に関する遺伝子群が含まれており、機械的環境にも寄与し、粘膜筋板形成を促進する可能性があることを示唆した。 胃ESD 後潰瘍標本に対して TGF-β1 免疫染色を行うと潰瘍部では陽性上皮の頻度が高く認められ、上皮由来のTGF-β1が組織損傷後の胃粘膜筋板の再生にも関与している可能性がある。 今後の研究により、これらの因子と粘膜筋板が再生することなく胃癌が粘膜下層に浸潤する仕組みとの関連を明らかにできる可能性がある。
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