研究課題/領域番号 |
20K17050
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 和幸 岡山大学, 大学病院, 助教 (40795027)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 膵癌 / 抗PD-1抗体 / バイオマーカー / 癌免疫療法 |
研究実績の概要 |
近年、抗PD-1抗体を中心とした癌免疫療法が多くの癌種に効果を示しているが、膵癌の治療反応性は悪い。我々は血液中自己抗体の臨床的意義を検討しているが、その中で、免疫抑制分子であるPD-1に対する抗体反応陽性者が、膵癌患者でも一定数存在することがわかってきた。本研究は、次世代の癌免疫療法の可能性を広げることができるバイオマーカーを同定することを目標にしている。本年の目標はステージの違いによる血清中抗PD-1抗体価の評価と切除組織でのPD-L1発現との関連を症例数を増やして確立することであった。 まず、間接ELISA法による血清中抗PD-1抗体の絶対値定量化の手技をELISAプレート、ブロッキング液、PD-1抗原・2次抗体を工夫し安定化させることに成功した。その手法を用い、129例のPK患者の血清を用いて抗PD-1抗体価を測定し、抗体価の高低での生存期間の比較をしたところ、Stage I-IIの検討では、抗PD-1抗体価高値群で平均:531日、低値群で平均:562日(Medianは未達)であり有意差は認めなかったが、Stage III-IVの検討では、抗PD-1抗体価高値群でMST:966日、低値群でMST:342日と有意に抗PD-1抗体価高値群で生存期間の延長を認めていた(P<0.05 log-rank)。癌の進展が局所に留まる状態では、抗体価による予後の差はなく、局所進行・遠隔転移を来した状態では、血中抗PD-1抗体価が高いほうが予後延長していることが判明した。 この結果から、進行期になった場合に、抗癌免疫応答の病態への関与が大きくなり、免疫抑制に関与するPD-1に対する抗体が存在することが予後改善に寄与する可能性があることが判明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
間接ELISA法での抗PD-1抗体価測定の絶対値定量化を行う事ができ、症例数を増やした検討もできている。抗PD-1抗体価の病態への関与も明らかになってきた。リンパ節転移を認めるStageIII以上で抗体価の病態との関連が有意であったことから、リンパ節に転移することで全身免疫応答が病態に影響するように変化している、と考察している。今後は、病理組織を使用し、主病巣とリンパ節や転移部での免疫関連マーカー発現の違いなどを明らかにすることで、血中自己抗体の病態との関連を裏打ちすることが出来ると考えており、現段階では順調に仮説を確定することが出来ている。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的にはStageIII以上は手術適応とならない為、StageIII以上と同様にリンパ節転移を有するStageIIB症例とリンパ節転移を有さないStageI-IIA症例で浸潤リンパ球の免疫応答関連マーカー発現を検討する。膵癌主病巣では癌は強い線維化を伴っていることから、免疫細胞浸潤を拒絶している可能性があり、線維化関連マーカー(Desmin、αSMA等)発現の程度と免疫細胞の活性化状態についても評価する。リンパ節では通常線維化を伴っておらず、癌がむき出しの状態であるため、免疫応答が生じやすい状態と考えられる。リンパ節浸潤癌細胞・リンパ球でのPD-1・PD-L1を含む免疫抑制性及び活性化関連(CD80・CD28・CD8等)マーカーの免疫染色により免疫のバランスを検討し、血中の抗PD-1抗体価との関連を明らかにし、病態に寄与する抗PD-1抗体価の規定要因を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ELISAキットの購入に大部分の予算が使用されたが、免疫染色までの検討には至らなかったため、次年度使用が生じることとなった。今後はELISAの継続により症例数を増やし、免疫組織染色用の抗体購入にも費用を充てていく予定である。
|