研究課題/領域番号 |
20K17060
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
佐藤 祐介 自治医科大学, 医学部, 助教 (20757265)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バクテリオファージ / クローン病 / 炎症性腸疾患 / 合成生物学 / 細菌叢 |
研究実績の概要 |
クローン病は炎症性腸疾患の1つで、消化管に慢性炎症が起きる疾病である。国内の患者数は増加傾向にあるが、未だ根本的な治療法が存在しないことが問題となっている。クローン病の発生には多くの因子が関与することが知られており、その一つに腸管細菌叢が挙げられる。クローン病患者の腸管細菌叢はDysbiosisを起こしていることが知られている。そして近年の研究で、そのDysbiosisにはAIECと呼ばれる大腸菌のグループの関与が示唆されている。この研究では、細菌のウイルスであるバクテリオファージ (ファージ)、特に合成ファージを用いてDysbiosisの正常化と治療を検証する。本年度はファージの分離および動物実験を実施した。 1. AIECに対するファージの分離。培地上 (in vitro) では複数のファージに対して感受性を示すことを確認した。しかしin vitroで感染性を示したファージでも、マウス糞便を含む ex vivo条件では殺菌活性を示さないファージが存在していた。感染域および殺菌力を総合的に評価し、1株の下水由来ファージを選出した。当初の予定ではこのファージにCRISPR/Casを搭載し、選択的殺菌活性を付与する予定だった。しかし、遺伝子改変が難しいことが判明し、先に改変技術の確立が必要なことが判明した。 2. 下水由来ファージのモデルマウスへの治療効果の検証。AIECを投与し、腸管炎症を起こしているマウスにファージもしくはMockを投与した。ファージ投与群では消化管症状が収まり、体重減少が抑えられた。一方、Mock群では症状の継続と体重減少が続き、死亡例も認められた。また消化管中の細菌叢を調べたところ、ファージ投与でAIECが消失 (減少) していることを確認した。このことから、本ファージがクローン病治療のための有効なファージ合成材料であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究では本年中でのファージへのCRISPR/Casの搭載を予定していた。しかし、それを終了できなかったため、この点では遅れがある。一方で、本年中に実施予定のなかった動物実験では、ファージの治療効果を確認した。この点では当初の予定よりも進んでいる。本年の進捗状況には遅延と前倒しが両方存在するため、差し引き0とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度終了できなかったファージへのCRISPRの搭載を行う。昨年度は分離したファージが長鎖のDNAゲノムもつため、その合成技術の確立を行なった。低い確率ながら成功例もあるが、自由自在に合成できる状況ではないため、その効率の向上をまず実施する。その後、昨年度生体内での効果が確認された下水ファージに対して、CRISPR/Casの搭載を行う。搭載成功後、その殺菌活性や安定性などを検証する。治療効果の検証には引き続きモデルマウスを用いて、本年では組織切片などの形態学的な手法も取り入れ実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1. 一部の分子生物学実験および次世代シークエンサーの解析を行わなかった。 2. 昨年度は公衆衛生上の問題から学会がオンライン開催されていたために、旅費の計上がなかった。 1の費用については、今年度使用予定である。2は今年度の旅費としての使用もしくは今年度も学会の現地開催がない場合には、消耗品への使途の変更を行う予定である。
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