研究課題/領域番号 |
20K17106
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 雄広 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (70780526)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 線維化 / 心臓線維芽細胞 |
研究実績の概要 |
心不全は我が国で約200万人が罹患する疾患であり、高血圧、糖尿病、脂質異常症の増加に伴いその症例数は増加の一途をたどっている。心不全のうち、収縮能が低下した心不全に対しては有効な治療薬が既に開発されているが、拡張能が低下した心不全には有効な治療薬がなく、早期の治療介入を必要としている。本研究では、心筋細胞の代謝物である乳酸が線維芽細胞を活性化するという仮説に基づき、心臓における過剰な線維化の発症機序を明らかにすることを目的とする。 傷害のない心筋組織における過剰な線維化は、拡張障害や致死性不整脈との関連が報告されているものの、その発症機序については未だに明らかになっていない。本研究では、心筋組織における過剰な線維化の発症機構について明らかにすることを目的とする。心筋梗塞後の心臓において、組織傷害を伴わない非梗塞部でなぜ線維化が起きるかはこれまで不明であった。心筋梗塞後は心筋壊死部が生じることで、非梗塞部においては心拍出量を代償するために仕事量および圧負荷が増大する。非梗塞部の心筋細胞への圧負荷の増大により、代謝シフトすることが想定され、非梗塞部における線維化へ関与していると想定される。 心筋細胞の代謝シフトの検証をin vivoで行うために、心筋細胞特異的LDH-A欠失マウスの交配を開始しており、心筋梗塞モデルや圧負荷モデルを作成し心筋細胞での乳酸代謝が心臓間質の線維化に与える影響について検証する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Col1a1プロモーター下にGFPを発現するトランスジェニックマウス(Col1a1-GFPマウス)の心臓初代線維芽細胞を不死化することで、心臓線維芽細胞株を樹立することに成功した。この細胞株はTGF-βの刺激により、初代培養細胞と比較してより鋭敏に活性化が誘導されることを確認しており、線維芽細胞活性化におけるin vitroの有効な系を構築した。今後、心筋細胞より産生される乳酸が線維芽細胞の活性化し、過剰な線維化を惹起するとの仮説に基づきその検証を行う。線維芽細胞株を乳酸により刺激するとCol1a1遺伝子発現が増加し、線維芽細胞が乳酸により活性化することを確認している。樹立した心臓線維芽細胞株のCol1a1遺伝子発現を活性化する因子について、プール型shRNAライブラリーを用いた網羅的解析を行ったとろ、HIF-1αシグナルが有意に含まれており、実際に、乳酸投与により、線維芽細胞核内でのHIF-1αタンパク量が増加した。
|
今後の研究の推進方策 |
in vitroでの解析により心筋細胞においても、細胞外フラックスアナライザーを用いた解析により、イソプロテレノール負荷時に心筋細胞から乳酸産生が亢進しているとの知見が得られた。このことから、心筋負荷時において、心筋細胞により産生される乳酸を介して線維芽細胞が活性化していることが想定し、今後、心筋細胞より産生される乳酸が線維芽細胞の活性化し、過剰な線維化を惹起するとの仮説に基づきその検証を行う。 心筋細胞における代謝シフトの機序についてはLDH-Aを介した機序を想定しており、解糖系代謝阻害薬である2-DGを用いて心筋細胞における力学的負荷亢進時に代謝シフトが起きる機序を今後解明する。 in vivoにおいては、非梗塞部においても乳酸産生が亢進していることを確認しており、乳酸刺激により過剰な線維化が惹起されることを想定している。実際、線維芽細胞培養株に対し、乳酸刺激時は有意にCol1a1含めCol2,Col3,αSMAのmRNA発現が増加し、乳酸が線維芽細胞を活性化させる知見を得ている。今後、上記Col、aSMAたんぱく量の増加を確認する。 心筋梗塞モデルマウスを用いたFACS解析では、梗塞部同様、非梗塞部においても線維芽細胞が発症から経時的に増加することを確認した。線維芽細胞をPDGFRaをマーカーとして単離した結果、いずれの線維芽細胞でもCol1a1発現が正常心臓の線維芽細胞のそれより有意に増加し活性化していることが示唆された。 乳酸による線維芽細胞活性化の機序としてはHif1aの関与を想定しており、実際に核抽出したウェスタンブロッテイングによりHif1aの核内移行が増加している知見を得た。今後は、クロマチン免疫沈降アッセイを用いて、乳酸刺激下の線維芽細胞において、Col1a1およびaSMAプロモーター領域にHif1aの結合が有意に増加していることを確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
解析機器の購入や学会発表などに使用する。
|