研究実績の概要 |
本研究では心筋組織内のマクロファージにおけるカルシウムカルモジュリン依存性キナーゼ(CaMKII)の心リモデリングにおける役割を明らかにし、治療標的としての有用性を評価することを目的とした。培養心筋細胞へのCaMKII遺伝子の過剰発現あるいはRNA干渉による発現抑制によって、Caspase-1活性などのインフラマソームシグナルの変化や、培養液中の細胞外小胞を詳細に解析したほか、マクロファージとの非接触性共培養による影響を観察した。その結果、心筋細胞内のCaMKII由来のシグナルがIL-1β, IL-18等を介してマクロファージの反応を惹起していることが見出された。8-9 週齢のCaMKIIの臓器特異的遺伝子組み換えマウスでは大動脈縮窄に伴う慢性圧負荷モデルでの炎症反応および線維化シグナルが野生型と比較して有意に軽減し、慢性期の左室心筋リモデリングが抑制された。ただしCD68陽性細胞の心筋組織内分布はCKOとコントロール群で有意な差を認めなかったため、マクロファージの遊走および集積においてはCaMKIIの関与は乏しいものと考えられた。高脂肪食およびL-NAME (N-Nitro-Larginine methyl ester hydrochloride) 投与による2-hit theoryに基づく左心機能が保持された心不全(HFpEF)モデルにおいては同マウスの左室心筋の線維化抑制が顕著であり、左室拡張能指標が維持され、肺重量が有意に軽減していた。ここまでの結果でマクロファージ内CaMKIIδは圧負荷および2-hitに伴う炎症反応、線維化および心機能低下に関与し心筋リモデリングにおける治療標的としての有用性が示唆されており、今後もマクロファージにおけるCaMKIIシグナル伝達解析を継続する方針である。
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