多くの心疾患でみられ、心不全をもたらす心筋線維化の評価及び治療のためのバイオマーカーが求められている。そこで本研究では、心筋線維化に対するバイオマーカーの開発を目指して、心筋線維化を担う細胞ではどのような糖タンパク質にどのような糖鎖修飾変化が生じるかを明らかにする。本研究からは、「線維をつくる活性」を評価するマーカーが得られるだけでなく、心筋線維化の分子メカニズム解明への重要な基礎情報が得られると期待できる。 昨年度までに、心筋線維化モデル細胞から同定した線維化関連レクチンについて、拡張型心筋症患者心臓病理標本を用いた検証を行い、線維化領域に特異的なレクチンを絞り込んだ。本年度は、他の心疾患における心筋線維化も評価可能なレクチンの選出を目的に、高血圧性心不全モデルラットでの心筋線維化に伴う糖鎖変化の検討に注力した。心臓組織標本の糖鎖プロファイリングにより、線維化領域で選択的に発現する糖鎖を認識するレクチンを2種類同定できた。それらの糖鎖特異性より、心筋線維化に伴いN型糖鎖だけでなくO型糖鎖も構造変化することを新たに見出した。次に、これらの糖鎖変化を示すキャリアタンパク質を推定するため、当該レクチンと候補糖タンパク質の特異的抗体を用いた組織染色を実施した。この検討により、拡張型心筋症モデルのグライコプロテオ―ム解析により見出されたN型糖タンパク質が、高血圧性心不全モデル心臓でも心筋線維化領域で当該レクチンと共染色され、心筋線維化に関連した糖鎖変化を示すことが示唆された。さらに、心不全群にて遺伝子発現が増加していた糖タンパク質と当該レクチンとの共染色を検討することで、2種類のO型糖タンパク質上の糖鎖変化が示唆された。以上より、心筋線維化に伴う糖鎖変化とそのキャリアタンパク質に関する知見が得られた。これらの知見は、血液マーカーへの応用や分子メカニズムの解明に役立つと期待される。
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