本研究は既存の血液試料を用い、非アルコール性脂肪肝/脂肪肝炎に関連する4遺伝子(PNPLA3、TM6SF2、GCKR、NCAN)の遺伝子多型が、動脈硬化症および脂質代謝に与える影響を検討することを目的としている。2021年度までにベースライン時に動脈硬化症に影響を及ぼす高血圧症、糖尿病、脂質異常症のない対象者1050名(テーマ1および2)の上記4遺伝子多型測定を完了した。 主要アウトカムを新規プラーク形成とし、ベースライン時調査で頸動脈プラークがなかった944名を対象として解析を行い、PNPLA3のCアレル、TM6SF2のCアレル、GCKRのTアレル、NCANのTアレル保持者が新規プラーク形成率が低い傾向であった。特にNCANのCCアレル群(1043名)では新規プラーク形成が13.8%に対してCTアレル群(76名)では4.8%と統計学的有意に低率であった。TTアレル群の2名をCTアレル群に加えてnonCCアレル群としても同様の結果であった。動脈硬化惹起性リポ蛋白については、NCAN CCアレル群と比較してCTアレル群ではRLP(レムナント様リポ蛋白)コレステロールが統計学的有意に低値であった。 2022年度に冠動脈疾患の既往はなく、脂質降下薬の服用もしていない、高血圧症、糖尿病、脂質異常症のいずれかを有する1488名(テーマ3)に対して4遺伝子の多型測定を行い、動脈硬化惹起性リポ蛋白との相関を解析した。TM6SF2とGCKRについては、Tアレル保持者はCアレル保持者に比較して、LDLコレステロール、small dense LDLコレステロール、LDL-TGが高値であり、動脈硬化のリスクが高いと考えられた。 今後は脂質異常症治療の最終目標である心筋梗塞などの冠動脈疾患発症予防に、これらの遺伝子多型が与える影響について前向き調査・解析を行う予定である。
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