研究課題/領域番号 |
20K17164
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
齋藤 佑記 日本大学, 医学部, 助教 (10838494)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | うっ血性心不全 / 超音波エラストグラフィー法 / 肝硬度 |
研究実績の概要 |
心不全は右房圧上昇に伴い肝うっ血、肝臓の線維化をきたす。特に左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)では、右心不全の合併が多いとされている。また、HFpEFでは非アルコール性脂肪性肝疾患を併存することが多く、肝線維化が拡張障害の重症度や予後不良と関連するとされている。2D shear wave elastography法による肝硬度の測定は消化器肝臓内科領域で肝線維化の評価に用いられている。近年、エラストグラフィ法で測定した肝硬度が右房圧や肝うっ血の評価に有用であることが報告されているが、HFpEFにおいて、2D shear wave elastography法により測定した肝硬度と病態や予後との関連は明らかでなかった。我々は、2019年9月から2020年6月に当院に入院した左室駆出率の保たれた急性心不全患者80例を対象とし、退院時に肝硬度を測定し、その三分位値で症例を3群に分け、経過を追跡した。三分位群では、年齢、NYHA心機能分類、総ビリルビン、γ-GTP、NTproBNP,Fibrosis-4 indexが有意に高値であった(all p<0.05)。また心エコー図検査指標では、右室拡張末期径、三尖弁逆流の重症度、TRPG、最大下大静脈径が有意に高値であった(all p<0.05)。中央値212日の観察期間内で25例(31.2%)の心イベント(全死亡と心不全再入院)が発生し、三分位群で有意に心イベントの発生率が高率であった。(log-rank p=0.002)肝硬度は、従来の心不全リスクスコア、肝線維化指標、心エコーでの右心負荷指標で補正をしても有意に心イベント発生に関連があった。左室駆出率の保たれた急性心不全患者において、退院時の肝硬度は、うっ血や肝線維化の重症度を反映し、リスク層別化に有用であると考えられた。 本研究結果を学会発表、学術論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの我々の研究にて、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)により入院した症例80例を対象とし、心不全退院時に超音波エラストグラフィを用いて測定した肝硬度は、血液検査や心臓超音波検査での肝うっ血や肝線維化、右心不全を反映するような指標と強い相関関係を呈し、心イベント(全死亡と心不全再入院)の発生率と有意に関連することが示された。さらに、急性心不全症例を対象として、超音波エラストグラフィを用いて測定した脾硬度と右房圧との相関関係(n=62)、退院時の病態や退院後の予後との関係(n=115)について評価した。脾硬度は右房圧と独立して相関し、退院後の心イベント(全死亡と心不全再入院)の発生率と有意に関連することを示した。これらの研究結果を学会発表(①齋藤 佑記. 心不全患者における超音波エラストグラフィによる脾硬度の臨床的意義. 第93回日本超音波医学会、仙台、2020年12月、②Yuki Saito, et al. Clinical Significance of Spleen Stiffness in Patients with Acute Decompensated Heart Failure. 第85回日本循環器学会学術集会(プレナリーセッション)、横浜、2021年3月)、学術論文(① Saito Y, et al. Clinical significance of spleen stiffness in patients with acute decompensated heart failure. ESC Heart Failure. 2020:13;7(6):4005-14. ② Yuki Saito, et al. Prognostic Value of Liver Stiffness Measured by Two-dimensional Elastography in Acute Decompensated Heart Failure with Preserved Ejection Fraction. International Heart Journal. 2021 Jul 30;62(4):821-828.)として発表している。順調に研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度、今年度の研究にて、心不全における多臓器のうっ血を超音波エラストグラフィー法で評価することの有用性を概ね確立することができた。今後さらに学会発表を通じて研究成果を公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表に伴う旅費、交通費の支出を想定していたが、COVID-19に伴う学会現地開催の中止により使用しなかった。次年度に日本超音波医学会で招待講演を予定しており、その際に使用する予定である。
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