本研究は、右心不全に対する分子標的療法を創出することを目的とした研究である。なぜなら、右心不全に対する特効薬はなく、右心不全があることによって薬 物治療の選択が難しくなるからである。右心不全だけを改善する治療ターゲットを探すため、網羅的遺伝子発現解析を行うと、右心室で補体副経路が活性化して いることが分かった。補体副経路は自然免疫に重要なタンパクであるが、心臓での役割は分かっていない。補体副経路を阻害することでマウスの右心不全モデル で右室機能が悪化しなかったことから、補体副経路を阻害すれば右心不全を治療できるようになると考え、メカニズムの解明を行いたい。 現在主にわかっていることとして、肺動脈結紮マウスモデルを用いると右室不全の進展が有意に抑制されること、心不全や線維化関連遺伝子発現がC3ノックアウ トマウスで抑制されること、C3KOマウスの肺動脈結紮マウスでは催不整脈性が抑制されること、これらと同様の事象がC3a受容体阻害剤によっても確認された、 これらのことが明らかになった。このことを基に、培養細胞を用いた実験で、C3aの直接の下流にあたる転写制御因子をいくつか同定したこと、既知のケモカイ ンの発現量もC3-C3a経路の阻害によって低下し、さらにこの現象はin vivo-in vitroに共通して認められた。 これらの主たる表現系を基に、メカニズムを解明するために追加の実験系をいくつか確立し、さらなる解析を進めている。特に、右室疾患と催不整脈性の関連が 知られており、不整脈の誘発実験(ペーシングなど)、単離心筋の性質の検討を行う。 さらに、C3aの下流となる炎症性サイトカインの作用についても検討を行った。
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