肺動脈性肺高血圧症は予後不良な進行性の疾患であるが、肺動脈リモデリングにいたるシグナル伝達経路は未だ不明である。本研究においては肺血管内皮細胞に指向性のあるアデノ随伴ウイルスを用いてマウスの肺血管内皮細胞特異的にタンパクを過剰発現させることで、肺動脈性肺高血圧症のメカニズムの解明と新規治療薬の開発につなげることを目的としている。 本研究の具体的な項目は①肺血管内細胞に指向性のあるアデノ随伴ウイルスを効率的に作る方法・簡便に精製する方法を確立し、肺動脈性肺高血圧症のメカニズム解明に資すること。②C-terminal binding protein 1 (CtBP1)を①で作成したアデノ随伴ウイルスを用いて、マウスの肺血管内皮細胞に過剰発現させることで、肺動脈性肺高血圧症に対する役割について解明することである。 ①に関しては、昨年度までの成果として従来の方法と比較して多量のアデノ随伴ウイルスを産生することに成功した。本年度はその得られたアデノ随伴ウイルスを、超遠心機を用いることなく、簡便な方法で精製度の高いアデノ随伴ウイルスを精製することができるようになった。肺動脈性肺高血圧症の動物研究はラットの病態がヒトと類似するため、ラットを用いることが多いが、本研究のウイルス産生・精製法を用いることでラットにも十分な量のウイルスを得ることができ、実際にラットでも効果があることを確認した。 ②に関してはCtBP1を過剰発現させたマウスでは肺動脈圧が高く、肺動脈血管壁も肥厚していることが有意差をもって明らかになり、肺動脈性肺高血圧症の発症メカニズムにCtBP1が影響を与えていることが明らかになった。しかし、時間経過とともに肺動脈圧が正常値に戻ってしまうことが判明し、進行性のヒトの肺高血圧症の病態とは異なることが判明し、さらなる検討が必要なものと考えられた。
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