研究課題/領域番号 |
20K17210
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 峻志 東京大学, アイソトープ総合センター, 特任助教 (00792061)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 遺伝性肺動脈性肺高血圧症 |
研究実績の概要 |
遺伝性肺動脈性肺高血圧症の肺血管リモデリング抑制においてPERK阻害薬が有効であることを報告した(Science Signaling, 2021)。肺動脈性肺高血圧症(PAH)とは肺血管リモデリング(内皮障害、平滑筋細胞増殖)により肺血管抵抗が増大した指定難病であり、全世界に約4万人しかいない希少疾患である。PAH患者の約3割は主にBMPR2変異を伴う遺伝性PAH(HPAH)である。既存のPAH治療薬(エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬、プロスタサイクリン)により非遺伝性PAHの予後は大幅に改善したが、HPAHの予後は不良のままであり、有効な治療法は肺移植しかないのが現状である。日本では慢性的なドナー不足のため、肺移植に至る前に亡くなるケースが大半である。既存のPAH治療薬は内皮障害を改善する血管拡張薬であるが、肺動脈平滑筋細胞(PASMCs)増殖を抑制する治療薬は確立していない。本申請者の清水峻志は、BMPR2変異PASMCsでは小胞体ストレス応答の一つであるPERK下流シグナリングが異常亢進することを見出した。さらに、PASMCsのPERKからPDGFRβ-STAT1に至る信号伝達経路は、低酸素下解糖系を亢進することで細胞増殖を促進し、PAHの発症・進展に関わっていることを、疾患モデルマウスを用いた解析で明らかにした。本研究の成果は、HPAH の発症・進展におけるPERK の役割の解明につながるとともに、将来的な新規治療法の開発に大きく貢献することが期待される。 上記研究成果を基に、トラゾドンを構造展開した新規PERK-EIF2阻害薬の開発に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PERK阻害薬の遺伝性肺動脈性肺高血圧症に対する有効性を世界で初めて示すことに今回成功した(Science Signaling, 2021)。また、有機合成の専門家とこれまでの実験結果を基に、構造展開の方針等に関して議論を重ねている。
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今後の研究の推進方策 |
トラゾドン類縁体化合物をin silico解析を基にデザインして化学合成を実施する。これら化合物のEIF2阻害作用、セロトニン作動性、化合物構造情報を数理学的に統合し、属性毎に分類し(構造クラスタリング)、リード化合物候補物を検出する。リード化合物候補物のISR target genesへの作用を検証すると同時に、オフターゲット遺伝子に対する活性評価も併せて行い、細胞毒性が疑われる化合物を除外する。安全性が担保された化合物の臓器移行性を薬物動態検査により評価する。脳内移行性が担保された疾患モデルマウスに投与し、これら化合物の薬効及び副作用をin vivoで検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
化合物の設計・作製、有効性検証実験を本年度に予定しているため。
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