研究実績の概要 |
ARDS(acute respiratory distress syndrome,急性呼吸促迫症候群)は肺胞の血管内皮細胞障害により血管透過性が亢進し、血液液体成分が肺胞内へ漏出・貯留する(非心原性肺水腫)ことで起こる予後不良かつ死亡率の高い疾患である。本来、血管透過性の亢進は炎症などに対する防御反応として免疫細胞や血漿成分の血管外移動に寄与するが、過剰な亢進は種々の疾患の病態と密接に関連している。これまでに血管透過性に寄与する多くの分子が同定されており、低分子量G蛋白質Rhoもその1つである。Rhoは下流標的蛋白質(ROCK, mDia)を介してアクチン細胞骨格の再編成を調節していることが培養細胞を用いた解析で明らかとなっている。本研究では、肺でのROCKの血管透過性調節機構への寄与とその分子機序を解明し、ARDSの病態理解を深めることで新たな治療法開発の基盤を作ることを目的としている。本研究結果から、ROCK1/2コンディショナルノックアウトマウス肺において血管透過性が亢進することが明らかとなった。また、内皮細胞の接着因子であるVE-cadherinなどの発現量低下が認められた。このことからROCKが細胞接着因子の発現量を調節することで肺血管透過性を制御することが示唆された。その機序を明らかにするために遺伝子解析を行ったところ、ROCKノックアウトによりNF-κBシグナルの活性化が認められた。また、気管支肺胞洗浄液(BALF)中のIL6やCCL2といったサイトカインの上昇および好中球の増加が認められ、血管透過性の亢進に寄与していると考えられた。 本研究結果からROCKが肺血管透過性の調節に寄与していることが明らかとなった。本研究結果がARDSの新規治療法構築のための有用な知見となることが期待される。
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