急性腎障害は重篤な場合は致死的であり、慢性腎臓病や末期腎不全へ移行し得るという点でも非常に重要な疾患である。また、世界的にその発症頻度が上昇して いるものの、対症療法以外に有効な予防法および治療法はこれまで開発されておらず、新規の治療法が熱望されている。本研究では、これまでにあまり注目されてこなかった脳腎連関に着目し研究を遂行した。 本研究によって、シスプラチン腎症モデルを用いて、腎障害後においても迷走神経刺激を行うことで腎障害が軽減することを明らかにした。この腎保護効果発揮にはマクロファージにおけるCCL2等のケモカインの発現が迷走神経刺激によって抑制されることを見出した。 さらに、マクロファージ特異的α7ニコチン性アセチルコリン受容体ノックアウトマウスを作成し、抗炎症・腎臓保護効果発揮にはマクロファージに存在するα7ニコチン性アセチルコリン受容体が重要な役割を果たすことをin vivo実験にて明らかにした。脾臓を用いたシングルセルRNA-seqの結果、アセチルコリン刺激を受け取ったマクロファージが、刺激を受け取っていないマクロファージに影響を及ぼすことにより、アセチルコリン受容体刺激を受け取ったマクロファージが抗炎症・腎臓保護効果を発揮することも見出した。 また、交感神経を薬剤(β2アドレナリン受容体アゴニスト投与)にて刺激することによっても腎臓が保護されることを見出した。この交感神経刺激による腎保護効果は、マクロファージ上のβ2アドレナリン受容体が重要であり、交感神経刺激によってマクロファージにおいてTim3の発現が誘導され、近位尿細管保護へと繋がることを見出した。また、ヒト尿細管細胞を用いて、尿細管細胞がβ2アドレナリン受容体刺激によって直接的に保護されることも明らかにした。
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