研究実績の概要 |
急性腎障害(AKI)のハイリスク集団である慢性腎臓病患者で心臓血管外科手術を受ける患者を対象に前向きコホート研究を施行している。これまでの予備解析で、年齢、性別、喫煙歴で補正すると腎機能の指標であるeGFRは統計学的には有意ではないが、AKIを起こした症例で術後1年に渡り、長期に低い傾向にあった。ヘモグロビン濃度はAKIを起こした症例で低いが、年齢、性別、喫煙歴、時間依存性のeGFR、フェリチン、トランスフェリン飽和度(TSAT)、鉄剤投与量で補正するとAKIの有無で差はなかった。一方で、エリスロポエチンの血中濃度は同じ説明変数とヘモグロビン濃度で補正したところ、AKI症例の方が高い傾向にあった(p for interaction 0.08)。また、ln(フェリチン/TSAT)で定義した鉄囲い込み指数(Iron sequestration index, 慢性炎症の指標)は、年齢、性別、eGFR、喫煙歴、ヘモグロビン濃度、鉄剤投与量で補正すると統計学的に有意差はないものの、AKIを起こした症例で高い傾向にあった。まだ症例数が少ないため、断定的なことは言えないが、AKIを起こした症例でもエリスロポエチン産生能は保たれており、貧血が起こるのはむしろ、慢性炎症による鉄囲い込みが起こるからであることを示唆する結果となっている。また、エリスロフェロン、ヘプシジンについては、検体がすべて集まってからELISAによる測定を行う予定である。また、腎容積とAKIの関連を今後前向きコホートで解析していく予定であるが、その予備解析を後ろ向きコホートで施行し、腎容積がeGFRと独立したAKIの予測因子であること、腎容積が小さい症例で、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系阻害剤使用例でAKIが多いが、腎容積が大きい症例ではこれらの薬剤使用例で、むしろAKIが少ないことを明らかにした。
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