急性腎障害後、尿細管細胞は一過性に壊死に陥るものの非常に高い再生能力を発揮して元の構造を再構築する。しかし、尿細管の再生能力は加齢とともに低下し、高齢者では腎機能が回復せず透析導入に至るケースも少なくない。最近、申請者のグループはその要因として「加齢に伴う腎幹細胞数の減少」を明らかにした。 本研究では、「腎幹細胞の老化メカニズム」を明らかにする。Doxycycline誘導Histone 2B-GFPマウスを用いて、分裂速度の非常に遅い腎幹細胞をGFP標識する。若年マウスおよび高齢マウスからFACSにより分離したGFP標識腎幹細胞を用いて、発現量に差があるリガンド・受容体をプロテインアレイにより探索し、3次元尿細管誘導モデルの管腔形成能を指標にして、腎幹細胞の老化制御因子を明らかにすることとした。しかし、新型コロナウイルス感染の蔓延により、当初使用を予定していたDoxycycline誘導Histone 2B-GFPマウスの海外輸入が困難となった。そこで、尿細管再生に関する研究テーマをバイオマーカーの観点から再考することにした。 急性腎障害モデルラットを作成し、経時的に尿サンプルを回収し、ELISAにて新規尿中バイオマーカーの探索を行った。スクリーニングの結果、現時点で候補因子が複数ピックアップすることが可能となった。最終的にEGF(epidermal growth factor)に焦点を当てて解析したところ、急性腎障害の重症度を反映するバイオマーカーとして有用である可能性が示唆される結果を得た。。ヒト急性腎障害症例サンプルを用いてバイオマーカーとしての有用性を検証するとともに、得られた知見を「尿細管老化マーカー」の発見につなげたいと考えている。
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