研究課題/領域番号 |
20K17256
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
川合 未来 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (70868041)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 腸管 / ミネラルコルチコイド受容体 / 腸内細菌叢 / 食物繊維 / 原発性アルドステロン症 |
研究実績の概要 |
基礎研究においては、10-12週齢の雄マウス(WTおよび腸管上皮特異的ミネラルコルチコイド受容体ノックアウトマウス)に低食物繊維食および高食物繊維食負荷を行い、腸管上皮における短鎖脂肪酸のトランスポーターおよび受容体の発現を比較検討した。WTでは、高食物繊維食負荷により、Na共役型輸送体であるSMCT1の発現上昇が認められた。これまで短鎖脂肪酸トランスポーター発現の制御因子について検討された報告は少なく、SMCT1が高食物繊維食により誘導を受けることは新知見であった。一方、腸管上皮特異的ミネラルコルチコイド受容体ノックアウトマウスでは、高食物繊維食によるSMCT1の誘導が見られず、WTにおけ る発現と差異がみられた。このことから腸管に発現するミネラルコルチコイド受容体が短鎖脂肪酸のトランスポーターの発現を制御している可能性が示唆され、高血圧や代謝障害の発症の新たな発現機序の同定につながる可能性が考えられた。さらに、血中短鎖脂肪酸濃度測定では、SMCT1の発現パターンに一致して、両群間で血中短鎖脂肪酸濃度上昇に差異が見られた。現在、サンプルサイズを増やして再現性の検証を行っている。 臨床研究では、原発性アルドステロン症患者を対象に薬物治療および外科治療介入前後の血中および便中短鎖脂肪酸濃度の変化や腸内細菌叢の変化を解析することを目的とし、検体採取を行った。現在、アルドステロン産生腺腫8例、特発性アルドステロン症7例の臨床研究へのエントリーが得られている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎研究においては当初立案した計画に沿っておおむね予定通りに進んでいる。また臨床研究においても同様であり、順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
基礎研究では、仮説のとおり、腸管ミネラルコルチコイド受容体により短鎖脂肪酸トランスポーター発現が制御されていることを示す結果が得られており、再現性の検証を行うとともに、腸管組織の構造的変化との関連性なども評価していく。血中短鎖脂肪酸の濃度に与える影響についても、トランスポーター発現変化と整合性のある結果が得られており、サンプルサイズを大きくして、結果の確認を行う。腸管ミネラルコルチコイド受容体ノックアウトマウスとWT間で、血中短鎖脂肪酸の濃度にも差が出ている場合は、systemicな表現型を呈することも想定されるため、耐糖能や血圧などの評価を行っていく。 臨床研究では、引き続き、当院における原発性アルドステロン症検査入院の症例から研究協力者の募集を行い、目標のサンプル数を目指していく。一定のサンプル数が収集できた時点で、便検体を用いた腸内細菌叢のメタゲノム解析および便中・血中短鎖脂肪酸濃度の測定を行う。主たる評価指標は、原発性アルドステロン症の治療予後規定因子を検討のためのメタゲノム解析の結果だが、上記の基礎研究の結果で興味深い結果が得られていることから、これと連動して、原発性アルドステロン症治療に伴う病勢変化と短鎖脂肪酸トランスポーター機能の関連性の評価も行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
飼料や試薬類は教室で一括購入するなどして、経費の削減に努めた。また、短鎖脂肪酸測定は、一定の検体数に達しないと解析が行えないため、今年度は検体収集が中心となり、次年度への繰越額が大きくなった。今年度収集し未解析の検体が多数あり、次年度には予定どおり資金を使用する計画である。
|