糖尿病性腎臓病は、慢性的な高血糖によって発症する細小血管障害の一つであり、活性酸素の産生増加、慢性的な微小炎症、血行動態異常等が成因として考えられている。これらの成因には、腎構成細胞の増殖や細胞死等の機能の破綻が起こると考えられているため、細胞死は腎機能において重要な現象であることが考えられる。しかし、腎構成細胞の細胞死における詳細なメカニズムに関しては不明であり、リンカーヒストンH1(以下、H1)タンパクとの関連に関する報告は皆無である。したがって、本研究では、H1タンパクに着目した腎構成細胞死のメカニズムの解明を目的とする。 これまでに、糖尿病モデルマウスとその対照マウスを用いて腎臓の細胞死を調べていたが、予想に反して細胞死はほとんど起きていないことがわかってきた。そこで、本年度は、細胞死が起こりやすい状況にすべく、特殊餌を長期に与えることにより、腎臓へのダメージを増加させることを試みた。まず、糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスとその対照マウスである db/+mマウスを用意し、高脂肪食を12週間あるいは20週間与え、これらのマウスから腎臓を採取し解析を行った。一部のdb/dbマウスでは血尿が認められ、腎臓が肥大して内部に水が蓄積された水腎症様の症状が見られた。採取した腎臓を用いてPAS染色やHE染色を行ったところ、メサンギウム細胞の輪郭が不鮮明であり、構造が崩壊している像が見られ、糸球体変性が進行している可能性が示された。メサンギウム細胞の構造の破壊は、高脂肪食を与えたマウスでより観察された。さらに、昨年度に引き続き、ポドサイトを中心としたH1の発現分布と発現量に関して検討した。
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