研究課題
腎の線維化の進展にはマクロファージなどの免疫系細胞が関与するとされているが、依然として詳細は明らかでない。そこで腎線維化の免疫学的メカニズムの解明のため、C57BL/6マウスを用いて腎臓内の免疫細胞をフローサイトメトリー(FCM)で解析する手法を試みた。細胞を単離するための酵素処理法や比重分離法、また血球系を単離するためのゲート方法の検討などを行い、最適なプロトコールを確立した。本プロトコールを用いた解析の結果、腎臓内のマクロファージはF4/80を高発現する群(F4/80 high)と低発現する群(F4/80 low)に大別できることを見出した。さらにこれら2群の細胞は樹状細胞のマーカーであるCD11cを発現している事実も確認した。以上の結果は、Biochem Biophys Rep. 2020, 22:100741に報告した。次に、抑制性のシグナル伝達分子であるShp1をCD11c特異的に欠損するマウス(Shp1 CKO)を用いて解析を行った。これまで、Shp1 CKOの腎臓内ではマクロファージが著増し、腎の線維化が亢進する事実を確認しているが、確立したFCM法を用いてより詳細に解析した。その結果、Shp1 CKOの腎臓内では、F4/80 highのマクロファージが著増しており、これらはコントロールマウスに比べCD11b、CX3CR1、CCR5の発現上昇とMHCⅡの発現低下を認め、また増殖能の亢進を認めた。さらには、腎臓内の線維芽細胞の解析のため、本FCM法を応用し、腎線維芽細胞のマーカーとされるCD73やPDGFR、ER-TR7を発現する細胞の同定を試みた。その結果、これらを発現する腎線維芽細胞を同定できることが確認できた。
2: おおむね順調に進展している
腎臓におけるFCM法を確立でき、腎線維化を来すShp1 CKOの腎マクロファージの詳細な特徴を明らかにすることができた。また本FCM法を応用して腎線維芽細胞の同定が可能であることが確認できた。
Shp1 CKOの解析から、腎の線維化においてF4/80 highのマクロファージが深く関与しており、さらにはその制御にShp1が重要であることが示唆された。よって今年度は腎マクロファージにおけるShp1のシグナル伝達経路の解析を行う。また、FCM法を応用して腎線維芽細胞の同定が可能となったため、Shp1 CKOの腎線維芽細胞を定量的に解析する。さらに、細胞内に発現するα-SMAやビメンチン、I型コラーゲンなどの線維化マーカーの発現を確認する。腎の線維化におけるF4/80 high マクロファージの直接的な影響を検討するために、Shp1 CKOとコントロールマウスの腎臓からセルソーターにてF4/80 high マクロファージを単離して、腎臓の線維化マウスモデルに移入する実験を予定する。
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