慢性腎臓病(CKD)では塩分感受性が亢進しているが、WNKシグナルの関与については不明であった。また、炎症性サイトカインと高血圧発症の関連が報告されているが免疫機構によるWNKシグナル制御についても不明であった。2020年に我々は、本研究費の主たる研究目的である、この二つの点を明らかにする研究を報告した(Kidney International誌)。マウスCKDモデルにおいて、WNK1蛋白増加を認め、TNFαがNedd4-2のWNK1分解を抑制し、下流の塩分輸送体NCCを過剰に活性化することにより、余分に摂取した塩も体に再吸収してしまうことを明らかにし、TNFαはWNK1-SPAK-NCCシグナルを亢進させ、CKDの塩分感受性高血圧に関与することがわかった。本研究によってWNKシグナルが腎臓内の炎症/免疫シグナルと塩分感受性をつないでいることが明らかとなった。これは、CKDにおける塩分感受性高血圧の機序解明という点でも、免疫と高血圧を繋ぐ新知見という意味でも重要なものであった。 また、CKDではNCCの阻害薬であるサイアザイド系利尿薬の効果に個人差があることが知られている。さらに2021年New England Journal of Medicine誌に進行したCKDでもサイアザイドが有効であることが報告された。本研究の結果は、サイアザイド系利尿薬の有効なCKD患者においてTNFα-WNK1-SPAK-NCCシグナルの亢進している可能性を示唆していると考えられる。腎内でのTNFα産生を反映する尿中TNFαの測定がWNK1-SPAK-NCCシグナルの活性、サイアザイド系利尿薬の有効性を事前に判断するバイオマーカーとなる可能性の検討を現在進めている。
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