研究課題/領域番号 |
20K17280
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 あゆみ 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (40794053)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人工知能 / 超解像度顕微鏡 / 腎生検 |
研究実績の概要 |
本研究では、AI(Artificial Intelligence)に超解像度顕微鏡画像の情報を組み合わせ、より正確に腎疾患を診断し、さらに腎予後を予測できるAIを構築する。 超解像度顕微鏡を用いた腎組織の評価では、AI診断に用いているものと同一の、染色済みの光学顕微鏡用腎生検組織をそのまま用いて糸球体上皮細胞や尿細管上皮細胞ミトコンドリアなどの腎微細構造が評価可能であることを見出した。さらにこれらの変化をフーリエ変換を用いることで定量評価が可能であり、腎微細構造変化の程度が尿蛋白や腎生検後の腎機能低下速度といった臨床情報と相関することをすでに報告した。この結果から、光学顕微鏡用組織には、ヒトが認知可能な情報以上に病態を反映する様々な情報が内在していることが明らかとなった。 AI開発においては、全国多施設の協力により、5002例の腎生検画像のWhole Slide Image(WSI)から作成したパッチ画像を用いて学習を行い、腎病理組織のSegmentationおよびその視覚化を行い、糸球体や尿細管における障害領域を定量的に評価できるAIを作成した。さらに、これらの評価結果を各施設で診断された組織評価スコア等と比較したところ、IgA腎症におけるMEST-C組織評価スコアなど各施設において評価された組織スコアを反映したスコアリングが可能であることが明らかとなった。現在までの実績について報告する論文を作成している。今後、超解像度顕微鏡画像情報や縦断的な臨床情報をくわえて解析することにより、さらにAIの性能上昇を目指す方針である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究におけるAI(Artificial Intelligence)開発に用いるヒト腎生検の超解像度画像については、前年度の研究においてすでに取得済みである。この成果により、腎糸球体上皮細胞の細胞構造の破綻の程度と臨床的に認められた尿蛋白量とが相関することが明らかとなった。また、腎尿細管上皮細胞のミトコンドリアの形態異常が、腎生検後の腎機能の低下速度と相関することを明らかにした。本研究については論文報告を行った。また、AI開発については、全国24施設において腎生検をうけた5002例のPAS染色 whole slide image (WSI)を約600万枚のパッチ画像に分割した。約26万枚の典型的パッチ画像を2名の腎臓内科医が56クラスにアノテーション付けした。この画像を用いてトレーニングを行ったモデルで全600万枚のパッチ画像を評価し、各施設でつけられた組織評価スコア等と比較した。尚、腎生検画像学習済みのモデルを用いて全600万枚のパッチ画像をクラス分けしたところ、6.9%の画像においてtop-1 probability < 0.5 となった。AIが評価したクラス分類を元のWSIに投影することにより、糸球体領域や病変を有する糸球体、血管などの視覚化も可能であった。また障害尿細管領域の割合などを定量的に評価することが可能であった。これらの画像は腎臓内科医でも判別困難なものが多かったため後の解析において除外した。約26万枚の画像を学習したモデルを用いて、例えば微小変化型ネフローゼ症候群において正常糸球体が多いといった疾患の特徴を捉えることが可能であった。また、IgA腎症におけるMEST-C組織評価スコアなど各施設において評価された組織スコアを反映したスコアリングも可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、作成したAIおよび学習結果について複数の学会において報告を予定しており、これらの成果についての論文を作成中である。 今回作成したAIではWSIにより得られた画像のみを使用して学習を行ったが、解析に用いたものと同一の腎生検プレパラートを超解像度顕微鏡で観察した画像を解析に追加し、より精度の高いAIの作成を行う予定である。 また、現在のデータセットでは、Alport症候群、Fabry病などによる腎病変など、希少疾患の評価を行うためには各症例の十分な症例数が得られていないため、さらに対象施設を広げることにより症例数を拡充する方針である。 また、今回の解析では、腎生検時のに取得された横断的な臨床情報を用いて行っているが、腎生検画像による予後予測が可能かどうかは課題である。今後、腎予後が評価可能となる縦断的な臨床情報を収集し、予後との関連を検討する方針である。
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