研究実績の概要 |
メチルグリオキサールで刺激をした腹膜線維化マウスでは、ヒストンメチル化酵素(MLL-1)の発現が上昇しており、それに伴ってヒストンのメチル化が進行し(H3K4me3の発現行進)、P16の発現が亢進していた。つまり腹膜の線維化にP16による腹膜細胞の老化が関連していることが示唆された。反対に、MLL-1阻害薬を投与することで、H3K4me3を介して、P16が低下することで腹膜の肥厚や炎症細胞の浸潤や線維化マーカー(α-smooth muscle actin、collagen1,3)、マクロファージの発現が低下した。腹膜平衡試験においては腹膜透過性の亢進(D/P BUN)が抑制され、形態学的だけではなく腹膜機能の改善も示された。ELISAで測定した腹水中TGF-β1濃度についてもMLL-1阻害薬によって減少していた。 これらより腹膜線維化マウスにおいて、P16を介したストレス誘導性の腹膜中皮細胞の老化が線維化に関与しており、H3K4me3によるP16の転写活性を制御することで腹膜線維化を改善することが示唆された。 細胞実験においては、ヒト腹膜中皮細胞(HPMC)へのTGF-β1刺激によって、ヒストンメチル化酵素(MLL-1)、H3K4トリメチル(H3K4me3)、p16発現が亢進することが確認された。同時に、MLL-1阻害薬(MM-102)投与による上記所見の改善、ならびに線維化マーカーも改善していた。今年度はHPMCにおけるH3K4me3のクロマチン免疫沈降法を実施した。P16のプロモーター領域がH3K4me3抗体で免疫沈降されること、およびMLL-1阻害薬はH3K4me3抗体でTGF-β1によるP16遺伝子プロモーターの発現亢進を阻害した。 これらよりヒストン修飾による腹膜中皮細胞の老化を介した腹膜線維化の機序の解明を行った。
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