研究課題/領域番号 |
20K17306
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
荒木 勇太 山形大学, 医学部, 助教 (30637228)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | SASH1 / 遺伝性色素異常症 / モデルマウス / 機能解析 / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
対象となる日本人患者情報を総括した。CRISPR/Cas9システムを利用してSASH1遺伝子変異マウスを作製し、日本人皮膚色モデルマウス(hk14-SCF+hairless)と交配させ、表皮に色素を有したモデルマウスを作製することができた。患者と同様のヘテロ接合体の他に、ホモ接合体も作製できた。研究実験計画に掲げた4項目について経過を報告する。 ①出生後、自然な時間経過で数十匹のマウスを観察したが、肉眼的には患者と同様の色素斑は確認できなかった。しかし、ダーモスコピーで確認すると、対照マウス(SASH1変異を持たないhk14-SCF+hairlessマウス)に比べ、毛孔周囲の色素斑の面積が不均一で、さらに分布異常もみられた。明らかな合併症は確認されなかった。 ②紫外線による色素斑の変化について観察を行った。SASH1ヘテロ・ホモマウスと対照マウスの背部半分にサンスクリーン(NOV shield EX)を塗布し、もう片方には何も塗布せず、紫外線ランプ(narrow-band UVB)を使用し、50-100mJ/cm2/回で週5回、8週間照射し皮膚の状態を観察した。紫外線による色素斑の増強は確認できなかった。 ③モデルマウス、対照マウスの組織学的検査を行った。Hematoxylin-Eosin染色では、両者の間に形態学的な差異は認めなかった。免疫組織学的検査では、複数の抗SASH1抗体を用いて染色を行ったが、SASH1の発現の程度に有意な差は確認できなかった。抗Melan-A抗体を使用した免疫蛍光染色では、モデルマウスでは、対照マウスより、メラノサイトから延びる樹状突起が少なかった。 ④モデルマウスの皮膚から採取したRNAを使用し、メラニン合成、接着因子に関わる分子の発現を検索(qPCR、RNA sequence)しているが、現時点では有意な変化のあるものはみられない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルマウスの作製がおおむね順調に進んでおり、研究実施計画で予定していた各種実験を一通り行えた。しかし、マウスの供給がまだ不安定(ヘテロ・ホモ接合体の偏りや、マウスの皮膚色の個体差が大きい)であるため、実験のn数を増やすためにも交配を継続していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に得られたデータをまとめつつ、次年度も実験を継続する予定である。まずは、マウスの安定供給を目指したい。 研究実施計画②では、マウスの色調や紫外線の照射量が影響している可能性も考え、条件を整えて次年度以降に再実験を検討している。 研究実施計画③について、抗Melan-A抗体陽性細胞・樹状突起の不均一をさらに検証するため、個体数を増やしてデータを蓄積したい。 研究実施計画④について、SASH1遺伝子変異による各細胞の機能変化を捉えるため、マウスの皮膚全体のRNA解析ではなく、メラノサイトやケラチノサイトなど、各細胞毎に分子の発現を検証できないか検討中である。採取したマウスの皮膚から、各種細胞の分離培養を試みたい。 また、CRISPR/Cas9システムを利用してSASH1変異モデルマウスを作製する際に、SASH1ヘテロノックアウトマウスの作製にも成功している。このマウスも日本人皮膚色モデルマウスとの交配を進めている。上手く交配が進めば、モデルマウスよりも皮膚症状がより強いマウスが産出される可能性があり、病態の解析が進むことが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、当初予定していた各学会への参加ができず、旅費として計上する費用がなくなった。また、マウスの作製が順調であったため、予定より作製費が軽減した。次年度以降は、主にマウスの交配・維持・タイピング、ダーモスカメラ、免疫染色などに使用する各種抗体、細胞培養に関連する器材、RNA sequence、各種実験に使用するプラスチック器具、論文作成などに助成金を使用する予定である。
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