研究課題/領域番号 |
20K17310
|
研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
河本 啓介 久留米大学, 医学部, 助教 (60791481)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 菌状息肉症 |
研究実績の概要 |
菌状息肉症は皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)のうち、頻度が最も高い代表的な疾患である。紅斑として発症し、次第にしこりや浸潤を伴い扁平に隆起するようになる。その後、びらんや潰瘍、腫瘤形成を認め、全身の紅皮症や腫瘍細胞の白血化にまで進展する。この一連の病期はそれぞれ紅斑期、局面期、腫瘤期、内臓浸潤期と呼ばれ、紅斑期や局面期では緩徐な進行であるが、腫瘤期や内臓浸潤期に入ると進行が急速で、リンパ節や多臓器浸潤が主な病変となる。進行期においてはほとんどの症例が治療抵抗性を示し、予後不良の経過をたどるため新たな治療法の開発が喫緊の課題である。しかし、その分子生物学的な発症進展背景についてはあまり知られていない。 本研究においては、菌状息肉症とその類縁疾患であるセザリー症候群の臨床症例データベースを作成し、臨床所見、血液検査所見、病理検査所見、治療、治療反応性、生命予後などの臨床事項を調査し解析することで臨床的な重要因子を抽出することができた。その後、データベースに登録した症例の、腫瘍細胞の病理検体・凍結組織検体を用いてDNAを用いた遺伝子変異解析と、RNAを用いた遺伝子発現解析を行い、臨床データと遺伝子変異・遺伝子発現解析結果を統合させることによって、臨床病期の進行にともなう遺伝子変異獲得や遺伝子発現異常の推移を観察することが可能となったり、遺伝子変異や遺伝子発現が臨床予後に及ぼす影響について検討することができる。また、腫瘍微小環境における遺伝子発現の解析を行うことで、病期進展や治療反応性、生命予後に与える影響も検討することができるのではないかと考えて研究を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、我々は新潟大学医歯学総合病院において菌状息肉症とセザリー症候群と診断された患者のデータベースを構築し、それぞれについて臨床診断、病理診断、臨床症状、血液検査データ、臨床病期、治療、治療効果、再発の有無、生命予後に関わる臨床情報をデータ化することができた。そのデータの一部結果は、男女比では男性が多く20例中14例(70%)であった。ECOG PSは低スコア(0~1)が多く、判定が可能だった17例のうち13例(76.5%)であった。IPI risk groupも低スコア(0~2)が多く、20例中13例(65%)であった。B症状が見られたのは2例(10%)のみだった。血清LDLは正常である例が多く12例(60%)だった。病変の状態による臨床病期は紅斑期が2例(10%)、局面期が1例(5%)、腫瘤期が8例(40%)、内臓浸潤期が9例(45%)だった。一方TNMB分類による臨床病期はStage Iが7例(35%)、Stage IIが9例(45%)、Stage IIIが1例(5%)、Stage IVが3例(15%)だった。Ann Arbor分類による臨床病期は限局期(I~II)が多く13例(65%)だった。進行期における病変部位はリンパ節が最も多く11例(55%)で、他に肝臓、脾臓、膵臓の病変が各1例(5%)見られた。治療内容ではステロイド外用が最も多く15例(75%)であり、次にCHOPもしくはTCOP療法が多く7例(35%)、次いでNB-UVB療法が6例(30%)だった。自家末梢血細胞移植と同種幹細胞移植がそれぞれ1例(6%)だった。以上のように症例データベースを作成することができた。このデータベースをもとに、菌状息肉症の進展形式と治療抵抗性に関わる因子について抽出するとともに、臨床経過が緩徐進行の症例と急速進行であった症例に分け、今後の解析を行っていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方針の概要としては、臨床病期の進行にともなう臨床症状やデータの推移を解析するとともに、各臨床病期において施行された病理組織学像の比較、凍結検体における腫瘍細胞や腫瘍微小環境の遺伝子発現や遺伝子変異解析の比較を行い、病勢悪化にともなう因子や病勢悪化に関わる遺伝子異常などの抽出を行う。また、同一症例の各臨床病期の検体を用いることで、遺伝子学的異常の経時的変化を追うことができる。 具体的には新潟大学医歯学総合病院にて菌状息肉症とセザリー症候群と診断された症例のデータベースを用い、データベースに登録した症例の病理検体・凍結組織検体を用いてDNA、RNA抽出を行い、次世代シーケンサーを用いた遺伝子変異解析と、mRNA-seqによる遺伝子発現解析を行う予定である。遺伝子変異解析・遺伝子発現解析の結果と、臨床診断、病理診断、臨床症状、血液検査データ、臨床病期、治療、治療効果、再発の有無、生命予後に関わる臨床情報のデータベースを統合することによって、臨床病期の進行にともなう遺伝子変異獲得や遺伝子発現異常の推移を観察することが可能となったり、遺伝子変異や遺伝子発現が臨床予後に及ぼす影響について検討することができる。また、腫瘍微小環境における遺伝子発現の解析を行うことで、病期進展や治療反応性、生命予後に与える影響も検討することができると考えている。 腫瘍細胞における遺伝子発現や遺伝子変異の解析、腫瘍細胞の周囲微小環境の遺伝子発現の解析も行うことにより、今回の研究では、臨床経過と遺伝子発現の変遷、遺伝子変異の獲得の付加的な異常を検索することが可能である。
|