菌状息肉症(MF)は皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の一亜型で、CTCLにおいて頻度が最も高い、代表的な疾患である。CTCLの臨床経過は紅斑として発症し、次第にしこりや浸潤を伴い扁平に隆起するようになり、その後びらんや潰瘍・腫瘤形成を認め、全身の紅皮症や腫瘍細胞の白血化にまで進展する。この一連の病期はそれぞれ紅斑期、局面期、腫瘤期、内臓浸潤期と呼ばれている。紅斑期や局面期では緩徐な進行であるが、腫瘤期や内臓浸潤期に入ると進行が急速で、リンパ節や多臓器浸潤が主な病変となる。進行期になるとほとんどの症例が治療抵抗性を示し、予後不良の経過をたどるため新たな治療法の開発が喫緊の課題である。しかし、その分子生物学的な発症進展背景についてはほとんど知られておらず、新たな治療の標的となる機序についてさらなる研究が必要である。 本研究においては、菌状息肉症とその類縁疾患であるセザリー症候群の症例データベースを作成し、臨床所見、血液検査所見、病理検査所見、治療、治療反応性、生命予後などを調査し解析することで臨床的な予後因子を抽出した。さらにデータベースの症例において、診断時の病理検体を用いて腫瘍細胞および腫瘍周囲環境の遺伝子発現解析を行い、臨床データと遺伝子発現解析の結果を統合させることによって、臨床病期の進行にともなう遺伝子発現異常の推移の観察が可能となり、臨床予後に及ぼす影響について検討を行った。また、遺伝子発現解析結果を検証するために、多重免疫染色システムによる蛋白発現の解析も予定している。さらに、腫瘍細胞の周囲環境における遺伝子発現の解析も併せて行うことによって、病期進展や治療反応性・生命予後に与える影響をより深く検討することができるのではないかと考えて研究を進めている。
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