研究課題/領域番号 |
20K17320
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
村山 直也 長崎大学, 病院(医学系), 助教 (60835213)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 無汗症 / AIGA / 熱中症 / 嗅覚受容体 |
研究実績の概要 |
特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidorosis: AIGA)は発汗異常症であり、明らかな原因なく後天性に全身に発汗低下を生じる。発汗による体温調節ができず、暑熱環境にいられない、運動ができないなど、患者の日常生活に大きな支障をきたす。現在日本では特定疾患に指定されており、十分なエビデンスがある治療方法がない。病状制御に難渋する症例を多く経験するが、これはAIGAの発症機序が不明であるゆえであり、その発症機序の解明および治療方針の模索を進めている。 まず、AIGAの症例で、発汗部、無汗部での汗腺の遺伝子発現の差異を評価した。AIGA の症例で全身のミノール法を行い、発汗部、無汗部を特定した。発汗部と無汗部からそれぞれ皮膚生検を行い、組織標本をLMD法で汗腺を限定して摘出した。回収したRNAからRNAシークエンスし、網羅的にRNAの発現を検索したところ「嗅覚受容体」がAIGAの発汗部で発現が亢進し、無汗部で発現が減少していることを発見した。 ヒトの汗腺での嗅覚受容体の存在はin situ hybridization及び免疫染色で検討した。健常人とAIGAの発汗部では汗腺分泌部に嗅覚受容体は発現していた一方で、AIGAの無汗部では発現が低下している傾向にあった。 また、嗅覚受容体作用物質を用いて、ヒト皮膚での嗅覚受容体の刺激が、発汗に与える影響を検討した。健常人の右前腕に嗅覚受容体作用物質を単純塗布し、左前腕に基剤だけを単純塗布する。自然乾燥後に両側の前腕で同時に定量的軸索反射性発汗試験(QSART; quantitative sudomotor axon reflex test)を行なった。13例で検討し、個体差はあるものの嗅覚受容体への刺激が、発汗量を増加あるいは抑制する結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は当初の予定通り、AIGA症例のRNAシークエンスの結果に基づき、嗅覚受容体の局在の検討、発汗への関与の検討が進められている。AIGA症例、健常者の組織標本を用いて、in situ hybridization法で嗅覚受容体の存在を確認した。また、健常者で嗅覚受容体作用物質の塗布の有無でのQSART発汗検査への影響を検討した。 現在までに検討できている嗅覚受容体は一部であり、より広範囲の嗅覚受容体で検証を行い発汗に作用する受容体を検索する必要がある。さらにin vivoでの検証を健常人からAIGA症例に拡大して実施する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討に加えて、AIGA症例での検討を進めていく。 嗅覚受容体作用物質を用いて、ヒト皮膚の嗅覚受容体を刺激し、発汗に与える影響を検討する。健常人でみられたように発汗量を増加させる作用が確認できれば、発汗制御に関わる新規の知見であり、未知の発汗機構の解明につながる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍にあり、病院から時短要請が出された。また、病院として緊急入院患者のCOVID-19検査当番や発熱患者のトリアージ外来など、新たなエフォートが発生したため、実験実施への制限があった。 2021年度は嗅覚受容体の活性化検出法として、レポーターアッセイを確立する。嗅覚受容体はGPCRであることから井上らが報告した、"TGF-α切断アッセイ"を用いる (Inoue et al., 2019, Cell 177, 1933-1947)。HEK293細胞にGPCR発現プラスミドベクター、AP-TGFα発現プラスミドベクター、Gα発現プラスミドベクターをリポフェクション法で遺伝子導入する。24時間培養後、試験化合物を添加し、1時間培養する。GPCRが活性化すると、GαによってTACEがTGF-αを解離させることからTGF-αに標識しているAPを吸光度測定し、活性化の程度を検出する。 細胞購入・培養費用80万円、プラスミド合成80万円、遺伝子導入試薬80万円、検出系キット55万円などを予定している。
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