特発性後天性全身性無汗症(acquired idiopathic generalized anhidorosis: AIGA)は発汗異常症であり、原因なく後天性に全身に発汗低下を生じる。発汗による体温調節ができず、患者の日常生活に大きな支障をきたす。効果的な治療方法がなく、病状制御に難渋する症例を多く経験する。AIGA発症機序の解明および治療方針の模索を進めている。 これまでにAIGA症例の発汗部、無汗部の汗腺組織の遺伝子発現をRNA-seqで評価し、「嗅覚受容体」がAIGAの発汗部で亢進し、無汗部で減少していることを発見した。ヒトの汗腺での嗅覚受容体の存在はin situ hybridization及び免疫染色で確認した。健常人とAIGAの発汗部では汗腺分泌部に嗅覚受容体は発現していた一方で、AIGAの無汗部では発現が低下している傾向にあった。 また、嗅覚受容体作用物質がヒトの発汗に与える影響を検討した。健常人の前腕で定量的軸索反射性発汗試験(QSART; quantitative sudomotor axon reflex test)を行ない、嗅覚受容体作用物質塗布の有無で比較した。13例で検討し、個体差はあるものの嗅覚受容体への刺激が、発汗量を増加あるいは抑制する結果であった。 本年度は嗅覚受容体に対する活性の評価をin vitroで実施した。嗅覚受容体はGタンパク共役型受容体であることから嗅覚受容体遺伝子を導入した培養細胞株を用いて、レポーターアッセイを行うことにより、嗅覚受容体のアゴニストとアンタゴニストを用いて活性を検討した。また、in silicoの検討として嗅覚受容体作用物質と嗅覚受容体の構造からリガンドの結合予測モデル作成を試みた。
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